第9話 忘れられない記憶
その日は、うだるような夏の日だった。朝から日差しが厳しくて、ドンドンと俺のメンタルを削っていった。
その上、彼女に重大な決断を告げるのだから、自分の気持ちは人生の中で一番沈んでいたといっても過言ではない。
スマホをチラリと見る。
メッセージアプリのアイコンの上に書かれた、未読のメッセージの数は100をゆうに超えていた。
俺が最後にメッセージを入れたのは昨晩のこと。
明日の早朝に、ここの公園に来て欲しいという旨を伝えた。
そこからメッセージは見ていない。ただ、見るたびに増えている通知も、俺のメンタルを抉っていた。
日陰になっている公園のベンチでしばらく涼んでいると、彼女は来た。
先鉾恵美は、Tシャツにジーパンといういつもの姿で公園に現れた。
いつも鋭い目は、今日は不機嫌そうに細くなっていた。
「……いきなり呼びつけておいて、メールは返さないってどういう了見?」
声もいつもより低く、暗い。
彼女をこれだけ不機嫌にさせているのは自分だ。俺がいると、彼女は不機嫌になってしまう。
その時の俺は自分にそう言い聞かせ、話を切り出した。
「恵美、別れよう」
「え……?」
「ごめん。俺じゃ恵美を支えきれない」
いつも強気な彼女の顔は、その時に悲しみに歪んだ。
冷静に、彼女はこんな顔もするのか、なんて思った覚えがあった。
「……嘘つき。幸せにしてくれるって言ったじゃん!」
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