第20話 解かないといけない糸
「楽しかったですね! 水族館!」
「ほんと? 楽しんでくれたようで何よりだよ」
水族館から出たとこで、ルナは楽しそうにそう言ってくれた。満足してくれたらしい。それならなによりだ。
今日は一日をデートに使ったため、水族館巡りが終了した時点で時刻は午後三時になっていた。まだ夕方ではないが昼とも呼びにくい、微妙な時間だ。
「これから何しますかね?」
「んー……」
昼ご飯は既に食べたし、晩御飯を食べるというのは早すぎる。
単純に帰宅というのは少しそっけなさすぎるのだろうか。などと色々考えてると、俺らの前を人影が通った。
先に気付いたのは、ルナの方だった。
「あっ……」
そんな声を出したので、どうしたのだろうと俺も前を向く。
すると、そこには幾分か久しぶりに見る顔があった。
「……恵美」
「へー、その感じだと上手く行ったんだ。紗智、一人抜けって魂胆?」
久しぶりに見る顔、ではあるが、懐かしい顔ではない。ここ最近、俺は彼女についてずっと考えていたからだ。
水族館から出ていく人、水族館へ向かう人が、俺らのことをチラチラと見ながら歩いていく。
「なんで、ここに?」
「さぁね。隣の彼女さんに聞いてみたら?」
相変わらず、恵美は明確な敵意を持って話してくる。
ただ、今日の彼女は少し元気がない気がした。
「そうです。私はもう紗智さんの彼女ですよ。今更、何をしに来たんですか?」
ルナも敵意を持っている。恵美に対してかなり威圧的だ。
「ま、まぁまぁ。そんな喧嘩腰にならないで、ね?」
「紗智さん。これは女の闘いなんです。今に関しては、紗智さんは部外者ですよ」
完全にルナのスイッチは入っていた。流石に、俺は当事者だと思うんだけど、これ以上何かを言ったら本当に怒られるかもしれないので、口を閉じることにした。
俺とルナのやり取りを聞いて、恵美は目を細める。なにか、気に食わないことがあったんだろうか。
多分、全部気に食わないんだろうな。俺とルナのことは。
彼女がどうしてそこまで俺に拘るかは、正直分からない。
ただ、彼女が俺に拘っている限り、きっと彼女に幸せは訪れない。
「別に、ルナちゃんと戦う気はないよ。紗智が付き合った時点で、私が恋人になることは多分無理だし」
ということは、ルナへの降伏宣言なのだろうか。お二人でどうぞ幸せにという、祝福をしにきたのだろうか。
流石に、そこまで恵美が温い人間では無いことは分かっていた。
「じゃあ、何を言いに来たんですか」
それはルナも分かっているようで、彼女を怪しむ旨の発言をしている。
「別に。でも……。恋人になる以外でも、紗智を奪う方法なんて、いくらでもあるから。精々、彼女として目を光らせておいてよ。それじゃ」
「奪う……?」
恵美は俺達とすれ違い、俺達が今出てきた水族館の中に入っていた。彼女も魚を見に行くらしい。
いや、それよりも。奪うとはどういう意味だろうか。彼女は何を企んでいるのだろうか。
そして、どうして俺にそんなに執着するのだろうか……。
「紗智さん! 何を言われても恵美さんなんかについて行っちゃ駄目ですよ?」
「小学生低学年じゃないんだから……。お菓子があるから付いておいでみたいなこと言われても付いてかないよ……」
もちろん、俺が好きなのはルナだ。恵美に何を言われても、ルナを悲しませるようなことは絶対にしないし、ルナを裏切ることも絶対にしない。
ただ、だからといってこのまま、恵美との関係を完全に断ち切るのも、違う気がするのは何故なのだろう。
恵美が俺に執着する理由が分からないのとともに、俺が恵美にずっと引っ掛かっている理由も良く分からない。
ルナは恵美に敵意を剥き出しにしている。決してこんなことは相談できない。
この問題が解決して、初めて俺はルナに一〇〇パーセントの熱意を向けられる。付き合ったというのに、完全にルナと向き合えていない自分がとても恥ずかしかった。
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