phase1

思惑の色

 虹の街で、きみに起こったことについて説明が必要かもしれない。


 例によって私は、笠原拓ときみと共に虹の街と呼ばれるテグストル・パールクを訪れた。必要な物を誰よりも先に手に入れるためだ。物と言えばきみは怒るかもしれない。


 私は、事務局から与えられた業務内容を頭の中で反芻させた。つまり、この街で誰と会って何をするかということだが、それを理解した上でやって来ている。きみに伝えていないことも正直に言えばあるのだ。同行してはいるが、私の仕事ときみたちの仕事には相違がある。しかし、それを先に口にすることはできない。もちろん業務のためでもあるが、きみのためでもある。きみのため、など言えばやはりきみは怒るかもしれない。


 案の定、きみは私を警戒することも当然なく、普段通りに仕事を進めてくれていた。きみの本来の仕事は違法オートマタの監視ないし掃討だが、今回は人探しになる。きみと同じ立場の人間を探し当て保護する、といった特別な仕事だ。きみは困惑からか少々浮足立っていたようだが、笠原拓のおかげで気も引き締まったようだし、きみと彼はいいパートナーといえるだろう。


 私の目的は、誰に恨まれようが嫌われようが事務局からの仕事を全うすることだ。無論、協力者もいる。きみが相手をするのに苦戦するであろう人間を連れてきた。

 それがつまり、きみのため、きみを救う手立てになるのだ。まずはきみの動きを制限しないことには計画は進まない。


 まさか私が、きみの不調に気づいていないと本気で思っているわけではあるまい。きみの変化など、すぐにわかる。私たちの仕事内容が違うのも、すべてきみの不調のせいなのだ。そして当の本人、きみ自身は、その不調のせいで事務局がどんな動きをしているのか知る由もない。きみと敵対している笠原工業の連中も、当然、きみを狙っている。それらの目を欺くのも苦労しそうだ。

 

 先に言っておこう。しばらく事は起きない。私たちの事情を知らぬ者たちには、私たちの行動が退屈にみえるかもしれない。


 だが、私たちにとってみれば、事の始まりはとっくに起きている。それは潮の満ち引きのようにうねりのあるもので、常に満潮でも干潮でもあるものではない。今は私たちの足首を浸らせる海水も、気が付いたころには人など簡単に飲み込む波をつくり出し、私たちを沈めるだろう。そうして海の底から見上げた時に、手遅れだと気づく。それは私が過去に経験したことだ。


 今回は、その波の中にきみを引きずり込むわけにはいかなかった。

 見たまえ、眼下に広がるこのロケーションを。さざ波、砂浜、複雑な色合いの街並みを。いったい誰が、この街で事が起こると思うのかね。虹の街、テグストル・パールク。


 太陽を引き連れてかかる虹が影を落とすとしたら、それはどんな色だろうか。私は飛行機の窓から空にかかる虹を眺めながら、そんなことをふと考えたのだよ。そんな起こりえない事を考えてしまうあたり、私もあまり、余裕というものがなかったのだと。今はそう思うのだ。

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