2-1 仕事が捗る場所って、人それぞれだろ?

 伊野田が市街地を歩き回っていた頃。


 拓は再び穴ぐらに戻り、笠原工業の内情を調べていた。昼間だというのに試写室のように薄暗いのは、実際にここがそういう使われ方をしていたからだろうと拓は思った。今は自分以外の人間はおらず、どういうわけが日付が変わった頃に人が集まり始める傾向にあるのだ。とはいうものの、人が少ない環境の方が集中できるので、拓にとってはどうでもよかったが。


 笠原工業のサーバーには当然真正面から侵入することができないため、穴ぐらの特殊なサーバーを経由して社員になりすますことで情報を探っていた。笠原工業の営業管理のドライブに潜り込み、テグストルへ旧型機体を卸した痕跡を探すと、契約を取り交わした書面がバックアップとして残っていたのを見つけた。そこに記載された社員を調べたものの、姉の文香や違法機体とつながりのある情報を得られず、拓は嘆息した。確かに笠原工業経由でオートマタは導入されているが本社経由でなく地方の営業所経由になっている。欲しいのはそれではない。


「笠原工業が動くタイミングで、この街に旧式とはいえ機体が導入されたのがキナ臭いんだよなぁ」

 そして、笠原工業の誰かがテグストルへ新金属の買い付けに来ているという情報だ。来ているとするなら本社の営業部なのだろうが、笠原工業のサーバーでは、今のところ誰も出張申請を出していない。


 つまり表に出ない仕事だ。テグストルの名前を見つけたところで、社員が報奨金で旅行に行った報告書くらいだった。しかし、メトロシティの劇場でワーム型機体から引き出した情報によると、裏では誰かが来ていることはほぼ間違いない。

 それに伊野田が何かしらの視線を感じたと言うのであれば、人にしろ違法機体にしろ、何かがいることには変わりない。

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