2-1 その他の業務について確認も必要だよな

「ところで街のオートマタは問題ないか?」

 コーヒーを啜って一息ついた後、伊野田が訊いた。


 オートマタはカーニバルの監視役として今回からテスト導入されたものらしく、今はどこの街でも使われていないほど旧式の機体を配置している。街を見たところ、主に交通整備や高級ホテルなどの警備を任せられているようだったが、違法機体が混ざっていた場合、他人事ではなくなる。彼の本業が、違法オートマタの監視ないし掃討だからだ。拓が口を開く。


「さっきも話したが笠原工業製ってことを除けばそこまで警戒しなくてもいいと思う。所有権が街の警備会社に完全に譲渡されてるから、技術者がいない限り下手な小細工もできないよ」


「確かにあれくらい旧式のほうが、この街っぽいよなぁ」

「セキュリティは最新レベルにアップデートされてるから、不具合も起きないと思う。もっとも出荷される時にイジられてたらお終いだけどね」

「元も子もないこと言うな」

「事実だから」


 拓がぴしゃりと言い放つのを尻目に伊野田は気になっていたことを訊いた。

「あの旧型じゃあ、”あいつ”は転送してこれない? それは確定か?」

 伊野田は脳裏に因縁の姿を浮かべた。緑の瞳の機体。自分と同じ世代のデザイナーベイビーで、唯一オートマタ化した機体。自分の前に現れる度に姿形が変わるため、もう本来の姿が思い出せなかったが。


「そもそも奴が転送できる機体は違法のモンに限るからな。正規品のセキュリティは固くて侵入は難しいよ。それにあの旧型じゃ、ウェティブのデータ転送ができるほどの容量がない。だから奴はこれないよ。理論上はね」


「なるほどね。その理論に穴がないことを祈るしかないか。あとは笠原工業の社員がテグストルに入ってるって話。そっちは?」

「警備の旧式オートマタよりそっちの警戒が必要かもな」

「そんなに大変なやつが来てるのか?」


 伊野田は少し心配になって、椅子から身を乗り出した。彼はオートマタ相手が専門であるが、対人間相手にすこぶる弱い傾向にある。さすがに素人に負けることはないが、その体質上、できれば相手をしたくないのが本音であった。


「それがだな、調べてる途中なんだ。誰がテグストルに入ってきているのか、いまいち明らかじゃない。わかったらすぐ連絡するよ。琴平さんも、それでいいですか?」

「うむ。問題ない。今日は休んで明日から本格的に動くとしよう。くれぐれも街を歩くときはカメラに気を付けるように。どこで誰が見ているかわからんからな」

 それを聞いて、伊野田は思い出したかのように口を開いた。


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