2-3 おまえって、おれには容赦ない物言いするよなぁ…

「なんだ、そのしけたツラは。なあ、疲れやすいって琴平さんに相談したのか」

 そう聞かれた伊野田は、バツの悪そうな顔をして拓から視線を外した。口の端から音を漏らすように「言ってない」と呟くと、呆れた声で拓が声をあげた。


「言えよ、なに遠慮してんだ、今更」

「そうじゃない」遠慮じゃない、と伊野田は拓の言葉を繰り返した。一度口をつぐんだが、今度はしっかり彼を見つめて言いにくそうに口を開く。


「…もしこれがきっかけで自分に欠陥が見つかって、破棄決定されたらどうする。使い道のない素材なんては破棄対象だろう。もしそうなったら、おれはどうすればいい?」


 拓は目を丸くした後、頭を抱えてため息交じりに返事をした。

「おまえなぁ、琴平さんがおまえを破棄するなんてことは……」

「あの人の場合、確実にないとは言えないだろう。そうじゃなくても、事務局がどんな判断をすると思う?」伊野田の肩に手を置こうとして上げた腕が、行き場をなくして空を切った。


「誰がどんな判断をしても、それは俺がさせない。まぁ、とにかくあんまり続くようなら言えよ、わかったな。おまえは普通と違うんだから少し自覚しろ。今日の昼間も緊張感が無さすぎだ。おい睨むなよ、おまえのために言ってるんじゃない。”おれたち”のために言ってんだ。悪気もないし、遠慮はしないからな。不安なのはわかるが酒の力に頼るな、なにかあるなら俺に話せ、わかったな」


 彼はそう言い切ってひとさし指を突きつけてくるが、フリだけで実際に伊野田に触れることはしなかった。伊野田はまだスッキリしていないような面持ちだったが、唇を噛みながらしぶしぶという感じで頷く。


 そして徐々に冷静さを取り戻し、拓の言うことに多少腹が立つのは図星だからだと、自覚する。居心地の悪い感情を吐き出すように、前髪を吹き上げてから「わかったよ」と呟いた。

「いいよ」と拓が言った。


「悪かった。…少し、頭を冷やしてくる」伊野田はそう言って、階段のほうへ向かっていった。

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