2-4 お兄さんは心配性

 拓はそれを見送ったあと、踵を返して会議室に戻った。ノックも忘れてドアを開く。ほんのわずかに驚いた顔をした(というよりドアノブの音に反応をみせただけだろうが)琴平がこちらを見上げた。彼は自分の端末を展開させ、仕事をしているようだった。


「あぁ、すいません」

「なにかあったかね?」琴平は顔色一つ変えずに作業を止め、膝の上で手を組んで見せた。拓は少し迷ってから口を開いた。


「今日あいつ、浮足立ってませんでした? カラ元気っていうか」

「ナーバスになっているんだろう。同類に会うのは初めてだからな」

「へぇ、あれで? ナーバス? 琴平さんもそういう言葉使うんですね。そういえば気になる事が……」


「なんだね」

「いや、なんでもないです。そのナーバスな感覚のせいで、ヘマでもしないか一瞬心配になっただけで」

 拓は言いかけた言葉をつぐんだ。


「うむ。ありえなくはない、注視しよう」

「じゃぁ、僕はこれで」

 拓はそう言って、再び会議室を後にした。しばし扉を眺める。

 そうだ、自分がわざわざ報告しなくても、常に伊野田を見ている琴平が、彼の不調に気づかないわけがないだろうな、と拓は思った。

 

 あの2人の間で、危なげに繋がっている関係性は、自分が伊野田らと出会う以前からそこにあった。初対面の時から、常に琴平が伊野田を監視していると気づいた。

 そんな、仮にもオートマタの管理を専門としている事務局員の琴平が、オートマタ素材として製造された伊野田のコンディションについて、変化を見逃すわけがないのだ。


 杞憂だったかな、と思いつつ、拓は自室に戻った。だが、自分が心配しているのは、そういうことではなかった。それを上手に口にできるようになるためには、まだまだ自分にも教養や経験が必要なのかもしれない。

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