phase3

1-1 朝の支度ってダルいよな

 目を覚ました伊野田はベッドからずるりと体を這い出すと、寝ぼけ顔のままシャワー室に向かい頭から熱い湯を浴びた。


 徐々に思考が戻る反面、体から流れ出る倦怠感が途端に恋しくなる。それを無性に引き留めたくなる錯覚を、送風で水滴と一緒に吹き飛ばす。終いにタオルで湿った髪を大雑把に拭きあげれば、ようやく目の前が冴え始めるのがわかる。


 室内に戻った彼は、肌色にコーティングされた義手を右腕に装着して電源をいれた。微細な機動音が聞こえたら、感触を確かめるように指先の運動を繰り返す。今日もこれが自分の腕だと思い込むために、しばし半眼でそれを見下ろしてから部屋に置いてある支給品ボックスのハッチを開けた。

 

 この市街地でも携帯できそうな物がないか腕を組みながら眺め、いくつか取り出してみる。大げさな装備を持ち歩き、警備オートマタに声をかけられるのは面倒だ。伊野田は舌打ちしたあと前髪をふっと吹き上げ、小型のセラミックナイフを携帯した。上からシャツを羽織れば目立たないだろう。


 ついでに膝と肘にプロテクターを装着する。上からブルージーンズを履き、鏡の前でくるりとまわってから椅子に掛けていたパーカーを羽織る。少し迷い、サングラスを掴んでリビングに顔を出すと、既に笠原拓の姿はなかった。穴ぐらに戻って作業しているか、個人的に調べたい場所に行っているのかはわからないが、なにかあれば連絡が入るだろう。

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