1-2 はっきりしない業務指示って、ほんと困るよな

「目的のデザイナーベイビー、探す手がかりって本当にコレしかないのか? 今どき? こんな方法で探すの? 拓が現地に先入りしてて、この方法なの? 他にないの?」

 たたみかける伊野田の質問と困り顔をよそに、拓は仕方ないと言わんばかりに「そうだよ」と返事をし、そのまま続けた。


「そう。俺が先に現地入りしたけれど、困ったことに手がかりはほとんどない。でもそれは笠原工業も一緒。特色のせいで、長らく発見できなかったってわけだ」

「特色が問題だったってことか。でも、わざわざ現地まで来たってことは目星がついたってことだよな?」伊野田は念を押した。


「うむ。目星はある程度ついている。今回の保護対象について明らかになっていることをまとめよう」

 琴平が会話に入りこみ、伊野田の展開したグラフィックの隣にマップを開いた。赤く透過されている範囲が、その目星がついた場所ということだろう。マップの縮図を鑑みても、お世辞にも”絞り込んだ”とは言い難い範囲だなと、伊野田は思ったが、彼は敢えてそれは口にしなかった。顔は険しいままだったが。


 そのマップを眺めながら、琴平が続けた。

「さて今回の仕事は、この二人の女性の保護だが、笠原工業も見つけられなかった理由が特色だ。この世代の特色一覧を確認した中に、ステルス表記があった。彼女たちは第3世代の中でも”特色が見受けられない”理由で当時の研究者が手放した素体だが、特色がステルスなら見落とす可能性は0じゃない。この不安定な素材がオートマタ化に使われて出来上がるものの危険度などはかり知れん。絶対阻止案件だ。だから保護せねばならん」


「ステルスっていうとつまり?」

「文字通りだ。本当に消えるわけではないが、発見できたと思った時には行方をくらましてしまう。というのが報告にある」

「ふたりともステルス?」伊野田が尋ねた。この範囲で、かくれんぼが得意な人間を1人もしくは2人見つけるとなるとさすがに骨が折れる。


「そうとは限らん。他にあるとすれば考えられる特色はソナーだ」

「ソナーってのも文字通り?」

「文字通りだ。ステルスとは逆に、探してる側が補足される、と報告にある。補足条件は不明だ」

「それどうやって探す気?」苛立ちの混ざった声で伊野田が不平を漏らす。琴平は何食わぬ顔で口を開いた。


「目星がついている場所に向かってもらう。デザイナーベイビー同士はちあえば、きみなら何かわかるかもしれん」

「そんな、曖昧な、……計画で、来たの? ここに、ウソだろ?」

 当の本人は絶句し、目を丸くしてそう言ったあと、ついに頭を抱えた。拓がそれを見て大げさに両手を広げてフォローした。伊野田には見えてなかったが。


「まあステルスっていっても透明人間みたいに姿を消せるわけじゃないだろ? やっかいなのはむしろ本当にソナーがいた場合、こっちが先に補足されないかってこと。おまえはそれを気を付ければいいよ」

「ちなみに、本人にデザイナーベイビーって自覚があるかどうかはぁ?」

伊野田は俯いたまま力のこもらない声でぼやいた。琴平が淡々と聞いてくる。


「きみはどうかね」

「なんかおかしいって自覚は、あったよ。昔から。うまくいえないけど」

「二人にもそれがあるはずだ」

「嘘だろ、手がかりほんとにそれだけ?」

 伊野田は弱弱しく頭を起こし拓を見つめた。他に情報があると言ってくれ、という熱い視線を受けつつも拓は肩をすくめた。これ以上なにも出てこないことを悟った伊野田は椅子の背もたれに体を預け空を仰いだ。


「どう成長してるかもわからない、自覚があるのかも特色がなんなのかもハッキリわからない双子の女性を、観光客でにぎわってるこの時期に、この街で探して保護? 笠原工業より先に? なんの冗談」


「冗談ではない。我々が追っているのは人間以上、オートマタ未満の素体だ。存在があやふやで未知なものの居場所が絞り込めただけでも成果だ」

「人間以上、オートマタ未満ねぇ」


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