1-1 初めて訪れる街って、ワクワクするよな

 小型機のタラップを下りてまず感じたのは、温度差だった。冷房の効いた機内から外気に触れると、生暖かさやじっとりとした湿気を感じたが不快に思うほどではなかった。固まった体を解そうと背伸びをすると、冷えた肌を太陽がじりじりと焦がそうとしているのがわかった。


 そこから車に乗り込み、蛇行しながら色気のない飛行場を後にする頃には陽光が真上から照り付け、全ての影を地面と垂直に引き延ばすと、次第にカラフルな街並みが目に入ようになる。


 少しだけ混雑した公道を抜けて街の中心地へ向かった。公道の車両誘導をオートマタが担当していたので、伊野田は少し驚いた。それが初期モデルで、最近はほとんど見ることのない型だったため、思わず目で追ってしまった。しばらく市街地を走行した車は、緑の木々に囲まれた宿泊施設のゲートをくぐった所で停車した。運転手に礼を告げ、ゆっくりと開く自動扉を通過した先にいる受付に挨拶を済ませた伊野田は足早に部屋へと向かった。


 素早く荷を解きベッドにダイブした後、一息ついてから転がり起き、荷物からゆったりとした黒いボタニカルシャツ、白のハーフパンツとスニーカーを引っ張りだし、着替えを済ませる。彼はサングラスをシャツに掛け、遅れてやって来た同行者へ「偵察に行く」と言いながら部屋を飛び出した。相手が何か言っていたような気がするが、ドアが閉じたことで彼の耳には何ひとつ届かなかった。


 伊野田は振動する携帯端末には目もくれずに、来た道を戻るように施設のゲートから飛び出した。一呼吸おいた後、ゆっくりとした人々の流れを縫うように歩きだす。

 

 背の低い建物が立ち並ぶ小道を抜けてメインストリートに到着すると、先ほど飛行機から見下ろしていた街が目の前に広がり、初めて見る賑やかな光景に胸が躍る。


 時刻は正午を過ぎて30分ほどたった頃だった。たくさんの人が出歩いているが、道が埋まるほどではない。家族連れが多い印象だった。子供が親の周りをすばしっこく駆けまわるが、道が広いため全く気にならない。


 この辺りまで来ると街の見通しも良くなるから、迷子になることもあまりないだろう。人も探しやすいはずだ。裏を返せばこちらも発見されやすいということにもなるが。

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