2-3 市街地でバトる
(まさかコイツ、ジャミングまでしてるのか? だとしたら随分用意周到だな)
相手が再度、バットを振り上げる動作を見せると、周囲にいた人間たちは四方八方に散っていった。伊野田も路地に入り込むと、相手は自分だけを追ってきた。
攻撃対象は無差別でなく、自分だけのようだ。
それがわかり、伊野田は途中で足を止めた。自分と、襲撃者の2人だけしか路地にはいない。間合いを一定に保つ。
「なんなんだいきなり。誰だかわからんが”おまえは”人間だな?」
伊野田の問いかけを、相手は当然無視した。大柄な体型だが、性別は不明だった。
「まだ陽も落ちてねぇってのに、よくやるぜまったく。おれはなぁ、おまえみたいに場をわきまえない奴が嫌いなんだよ」
伊野田はそう悪態を付きながら、右足を前方へにじりだした。攻めの姿勢を相手に気取られないように慎重に。こちらはナイフ、相手はバット。リーチは多少、相手のほうが長い。まともに当たればヒビくらい入るだろう。
スピードでは自分が上回っていると自覚し、伊野田は駆け出した。距離を詰める。
空を切る音が、顔面真横を通り過ぎる。両手で振り下ろされたバッドを足で踏みつけ、伊野田は腰を捻って左肘を打ち込んだ。相手は額を突き出して受け止めるが、反動にも怯まずに踏まれたバットを持ち上げ、横に打ち込んだ。
路地のゴミ箱をいとも簡単に吹き飛ばし、散乱したそれを飛び越えて再度振りかぶってくる。伊野田は素早く相手の間合いに詰め寄ると、相手の左太ももに飛び乗って背面に回り込み、勢いそのまま右側に倒しこんだ。片膝を付いた相手の顔面めがけて、勢いよく膝を打ち付けようと足を振り上げたが、逆に自分の視界が反転した。
崩れた体勢から、片手で転がされたのだ。後転しながら距離を取り、伊野田は後ろ越しに手を伸ばした。グリップに触れる。相手はそれを悟ったのか、ずだん! と地面を蹴り上げ、猛スピードでこちらに迫ってきた。
「げぇ!」
思わず口から驚きをこぼすが、伊野田は相手の勢いを利用する方法に瞬時に切り替え、その懐に飛び込んだ。拳を突き出す。それが相手に突き刺さった感触もあったが、台風のようにこちらにぶつかってきた相手もろとも、路地から通りに転がり出てきてしまっていた。
「いたたた……。まったくなんて力まかせなんだ」
伊野田はそうぼやいて頭をあげた。すると相手もフラフラと頭をあげながら、転がったバットを掴み、ゆらりとこちらを見据えた。
その光景を目撃した通行人から驚きの声が上がっている。さすがに人通りはあるらしい。ナイフをださなくてよかったと思いつつ、どさくさに紛れて一度退散したいところだったが、相手はなおもこちらに飛びかかろうとしてくる。
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