2-2 不意打ちは嫌いなんだよ

 そんなことを考えながら、オープン前の店の前にたむろしてる若者たちの前にふらりと近づく。彼らの警戒感を金に変換することで、使い古されたスケボーを譲ってもらった伊野田は、薄手のパーカーを脱いで腰に巻いた。


 義手の接続部はプロテクタのおかげで目立たなくなっているし、小道具のおかげで見た目はただのスケーターだ。抱えて歩くだけで滑ってみる気はしなかったが。そのまま市街地を歩きながら休憩を挟み、地元民に道を尋ねるフリをして周辺の状況を確認したが、想像していた通り収穫はなかった。


 そうしている間に自分に送られてくる視線があまり感じられなくなったことは、少し気がかりだった。気配を消すのが上手いのか、こちらを煽って遊んでいるだけなのか、どちらにせよ良くない相手には違わない。歩道に自分の影が伸びていく。離れて飛んでいかないか、ふと心配になった。


 前方からスポーツチームの団体が歩いてくる。地元の野球チームのようで、装備もしてる。暑いのによくやるな、と思っていると、すれ違いざまに軽い接触があった。


 軽かったはずのそれは、強い衝撃に変換されて波紋のように体に響いていく。伊野田は自分の身体が転がった後にようやく倒されたと自覚した。受け身をとって素早く起き上がるころには、チームメイトと通行人のざわめきが聞こえてきた。


 見るとユニフォームを着た1人が、仁王立ちでこちらを見ている。


 キャップを目深に被り、サングラスをしていた。長い黒髪はまとめてはいるが、明らかに邪魔そうだ。バットの先端をこちらに、すっ…と向けたのが合図のようだった。


 体の大きさに似合わないスピードで、こちらに飛び込んでくる。チームメイト達が驚いて止めに入ったが、そいつは腕の一振りで彼らを薙ぎ払い、伊野田の間合いへ詰めてきた。


 その勢いに息つく間もなく、彼は咄嗟に持っていたスケートボードを両手で構えた。相手の全体重が込められた突きを受け、それは小枝のように真っ二つに割れた。左ひじが痺れそうになったが、伊野田は闘牛士のように身を斜め後ろに翻し、相手の力を分散させる。


 伊野田はそのまま相手の背面に滑り込みながら肘を振り下ろすが、読まれていたらしく、既に自分の頭上にバットが振り上げられていた。舌打ちしながら地面を蹴り後方に飛ぶと、さっきまで自分がいた場所をバットが抉っていた。距離を取ったことで、周囲の音が耳に入るようになる。誰かが通報しようとしたが、電波がないらしい。伊野田は息を整えた。体は少し重い。ナイフを出そうか迷った。周辺を素早く確認する。

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