2-1 まずは市街地を歩いてみるとするか
海沿いの土産店から、貝殻のオブジェをメトロシティへ発送した伊野田は、バスに乗って市街地まで戻ることにした。一番後方の席に座り、乗客や車窓を眺める。乗客の中には紙のガイド誌を眺め談笑している者や端末を操作している者、自分と同じように車窓を眺める者等の観光地らしい光景で、自分に注意を向けている者の気配はなかった。
今日もカーニバル関係のイベントが街のあちこちで催されるらしく、道を歩く人は賑わいを見せていた。
目的地のひとつ前の停留場で下車する頃には市街地に入っており、人通りはまばらになっていた。どこへ行っても道幅が広いのは土地がありあまってるからだろう。ここまで来れば、オートマタもほぼ見かけない。警備は人が集まる海岸地帯に集中しているらしい。
クリーム色の大きな建築物が見えて来たので、塀に沿って歩いてみると大学だった。若者の姿が多くみられる。角を曲がったところで振り返り、後方を確認してからパーカーの袖をまくった。
やはり日中は気温が高いのか少しだけ暑く感じる。このままずっと外を歩いていたら暑さで体力が消耗しそうだなと思い、額にうっすら滲んでいた汗に指で触れた。汗はなにも、暑さだけのせいではなく、市街地に入ってから自分に生まれた緊張感のせいだと伊野田は自覚していた。自分の身の回りの空気が凝縮されるような圧迫を感じ、彼は胸中で独り言ちる。
(ここに来てやっと視線の主が登場ってわけか? まぁ、こっちはお呼びでないんだけどね)
後ろ腰のナイフは使うことが無ければいいと思いながら、一度グリップに触れる。持ってくるのも悩んだ装備だが、視線を感じていた以上、丸腰で偵察する気にはやはりなれなかった。
(はやくやること全部終わらせて、こんな物騒な仕事とはオサラバしたいところだな、まったく)
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