2-4 目と目があっても運命だとは限らない
「しつこいぞ!」
伊野田がそう怒鳴りながら、相手の攻撃範囲から飛び出ようとするが、ふと後方に気配を感じた。自分のすぐ後ろ。そこに女性が身を潜めている。逃げそびれたらしい。
目が合う。
そのことに、その女性は驚いたようだった。その理由を確認する前に、伊野田は咄嗟に彼女の腕を掴み、引き寄せてから飛び跳ねた。瞬間、バッドを振り上げた相手が突っ込んでくる。間一髪のところで車の陰に身を潜めたが、一緒に転がった女性が仰向けになった自分の上に乗ってしまったため、すぐに動けそうもなかった。
相手がすぐにこちらに向き直ると予測し恐々としたが、どういうわけか周辺をきょろきょろ見まわして、すぐにそこから立ち去って行った。
明らかにこちらに視線を向けたはずなのにだ。警備がこんなに早く来たのか? と疑問に思ったが、難を逃れられたのなら一応よしとして、伊野田はようやく女性に声をかけることができた。見ると、彼女は目を閉じていたらしく、こちらを見るや慌てて立ち上がった。
「あ、急につかんですみません。大丈夫でしたか」
伊野田が不安げにそう訊くと、彼女は鼻から息を漏らして告げた。特におびえて目を閉じていたわけではないようだ。回答は予想していたものと違ったが。
「あのユニフォームのチーム、血の気が多くて有名なの。お兄さん、なにしたの?」
「何も。歩いてたらいきなり攻撃してきたんだ」
「へぇ、運が悪かったね。お兄さん。ねぇケガしてる? 近くに施設があるから、そこで手当したら?」
「え、ああ。…本当だ。ありがとう」
ただの擦り傷だが、どういうわけか気づいてしまえば痛みがキリキリ疼き出す。無視できる範囲の痛みだが、伊野田は腑に落ちないような顔で頷いた。彼女の顔を、つい最近どこかで見た気がするからだ。
そのうえ、咄嗟のことだったらから気が付かなったが、彼女の腕を掴んだ時も、自分の上に乗ってた時も、自分に発疹は起きなかった。人間に触ればいつも発疹がでるのに、それがなかったとうことは……?
あたりには誰かが呼んだのであろう警備が集まり始めていた。彼女は、「面倒だから、早くいきましょ」と言って、伊野田を促した。伊野田は路地に放置したままのスケートボードを急いで回収して、先を進む彼女の後姿を眺めた。
Tシャツワンピースの裾が、風に揺れていた。
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