3-1 女の子との会話って、難しくないか?
「あぁ、私、レルラっていうから」
唐突に、彼女が名乗った。伊野田は虚を突かれたが思わず聞き返した。
「レルラ? ただのレルラ? よろしく。おれは伊野田」
「へぇ、ただの、伊野田さん?」
レルラは少し面白がるように目を細めてこちらを見上げた。それ以上の会話はなく、ほぼ無言で市街地を歩いた。必要以上のことは話さないスタンスなのか、そうすると彼女がなぜ「休んでいけば」と口にしたのか伊野田は不思議に思った。土地特有のもてなし精神ということなのだろうか。
2人の横を、バスが通り過ぎて行った。交通量は大通りに比べれば少なく、自転車やバイクでの移動が目立った。ペットの散歩をしている人とすれ違う。メトロシティでは見かけない動物だったので、伊野田は思わず目で追ってしまった。
通りの角を曲がると、子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。はじめは公園かと思ったが、芝生広場が一体となった施設らしく、3階建ての建造物はそれなりの広さはありそうだった。真っ白い外壁を囲むように椰子の木が植えられており、敷地内にはハンモックが吊るされている箇所もある。
伊野田はこちらに転がってきたボールを軽く投げ返してやって、レルラの後に続いて広いエントランスをくぐった。「あ、おかえりー」と受付に声を掛けられたので、伊野田はなんとなく軽く会釈をし、木目の廊下を歩いた。
彼はレルラに断りをいれ、先にバスルームへ案内してもらうことにし、個室に籠って端末を開いた。表示されている機能を指で弾き飛ばし、目前に小型のモニタとセパレートキーボードのホログラムを展開させる。伊野田は壁に背を預け手早くテキストを打った。
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