1-4 人を見た目で判断するなって、教わらなかったか?

 伊野田と拓は広場の方へ歩きだした。マリンスポーツやアクティビティの朗らかな呼び込みや、笑い声をあげる地元の若者たちとすれ違う。沿道に立ち並んだヤシの木の葉が、ゆっくり風に揺れた。


 この地元民を装っている男は笠原拓といって、簡単に言えば仕事仲間だ。情報を取り扱っており、伊野田たちはそれを元に移動している。


 色黒の肌に明るい髪色、ひょろりとして見える体型は軽薄そうであるが、慎重に慎重を上塗りしたような男だった。今も、初めて訪れる場所に興味のアンテナを張り巡らせている伊野田とは対照的に、”地元民らしく”今更浮かれることもない落ち着いたそぶりを見せている。


 周りに流されることもなく、見た目以上に世話焼きなこの男との付き合いは数年になるが、立ち位置は相棒といえば近すぎるし、同志といえば堅苦しい。二人とも、この一連の仕事の目的地が同じなだけである。かといってよそよそしさは全くなく、互いに物言える仲ではある。


 笠原拓が伊野田たちに提供しているのは、そのほとんどが違法オートマタについての情報だ。各地で機体の信号などを察知次第、伊野田たちに連絡している。その際、現地に先回りすることがほとんどなのだが、穴ぐらと呼ばれる情報屋の隠れコミュニティに滞在することがほとんどである。


 穴ぐらは各地に点在し、雑居ビルや一軒家の地下室、営業中のカフェなど場所は様々だ。他所の情報屋と顔を合わせることになる時もあるが、穴ぐら管理者によるリスク対策が施されているおかげで誰の素性も明るみになる事はないし、互いに探りを入れる行為はタブーであるのが暗黙の了解となっている。


 無論、全ての穴ぐらが安全に利用できるわけではなく、セキュリティの甘い場所では相手からの逆探知から摘発されたりもする。閉じられた且つ開かれたコミュニティである。


 拓は今回もいつも通りに街の穴ぐらを利用し、仕事の情報を集めていた。穴ぐらの入室方法は、専用サーバーに挙げられた暗号を解く方法のみになっており、管理者のコードのクセを見つけるのも利用者の楽しみのひとつになっていた。


 当然、普通の人間が暗号を発見しても、それはただのコードの羅列にしか過ぎず、ほとんどの人が気にすることなくサーバーを通り過ぎていく。拓はそこで違法機体情報の他に笠原工業の、つまり笠原拓の身内の会社についての情報も探っている。


 理由があって実家を飛び出し、やっていることは造反行為に近い。親や、特に現社長で姉の文香ふみかからは目の敵にされているため、見つかるわけにはいかないのだ。穴ぐらのサーバーを経由することで痕跡を残すことが無く、こちらの足が付きにくくなるため、拓はどこに移動してもまず穴ぐらを目指すことにしている。


 無言で歩いていた所で、歩道の脇にゴミ箱を見つけた伊野田は空になった瓶を捨てに向かった。そして戻ってくるなり、思い出したかのように口を開いた。

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