1-5 どこ見てるのかわからないやつって、いるよな

「街にオートマタが配備されてるんだな」

「あぁ、最近導入されたみたいだよ。俺もあまり見たことないくらい旧式だけどな。頭の上に円環すらないんだから。なんか気になったか?」


 現在における正規オートマタの主な業務は、警備や医療フォロー、家事サポートなどが主流で、さまざまな業種で利用されている。


 その進化は目覚ましく、昨今の主流モデルは見た目がより人間らしくなっており、肌艶、髪色、染みや皺まで再現され、シリコンの肌素材や骨格パターンが幾つもある。時間をかけてシステムに学習させる自律回路を組み込むことにより、言動や挙動の再現性も非常に高い。


 人との区別をつけるため頭上に円環が表示されているのだが、この街で導入されている機体はそれすらないほど旧式だった。笠原工業が実用機体の製造を始めた頃の機体で、確かにひと昔前まではメトロシティでも見かけたが、いまはすっかり陽の目を浴びなくなったモデルだ。テグストルの政府が在庫を安価に引き取ったのだろう。


 白とグレーでペイントされた機体は人型であるが関節部分が異様に盛り上がっているし、四肢のパーツはロボットを連想させるような直線的なデザインになってる。顔にはカメラが内臓されているはずだが、ツルリとした卵型でのっぺらぼうの顔面の、どこにカメラがあるのかは一見するとわからなかった。


 話す文言もあらかじめ登録された定型文のみであるため、会話の成立は難しいだろう。警備の制服着用などできないので、腕章を巻いていた。伊野田は一度振り返ってから、続ける。


「いや、あの型だと、どこから見られてるのか解り難いのが気になるなって。あれほど旧式なら問題はない?」

「警戒が必要かってことか?今のところはないが、笠原工業製だからなぁ…。まぁ、詳しくは揃ったら話そう。拠点でゆっくりとさ」

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