1-3 その土地を知るにはまず食からっていうよな
端末を見ると、同行者からの連絡が数件あったが、これはあえて無視して別の通知からマップを開く。そこに待ち合わせている男が居るはずだ。
2ブロック程、市街地の方へ戻る形で彼はゆっくりを足を運んだ。円と直線をばら撒いたような、入り組んだ形状の道をナビの通りに進むと、地元民でにぎわう食堂の隅に、席ではなく店の外壁に背をもたれた男がいた。
笠原拓だ。
監視カメラの死角ギリギリにいるのがわかる。道路を横切って、背後を確認しながら店の前まで進む。拓はこちらを見つけるなり目を丸くして開口一番に言い放った。
「なにその恰好」
「郷に入れば郷に従えっていうだろ」外見を指摘された伊野田は、思わず両手を広げて見せた。羽織っているシャツの裾をさらりとした風が凪いでいく。拓は間髪入れずに続ける。
「観光かよ、え? まさか飲んでる?」
「その土地を知るにはまず食からっていうだろ?」
伊野田がビール瓶を掲げると拓は、おまえなぁ、とぼやいてから頭を掻いた。半ばあきれたような声色で告げる。
「琴平さんにどやされるぞ」
しかし伊野田は、同行者の名前を出されてもほとんど気にせず、拓の服装について尋ね返した。
「拓こそ服どうしたの」
「これか? 現地のやつに譲ってもらったんだ」
こなれた(というより少しよれた)Tシャツ、と踵のスレたスニーカー…これは本人の履き潰したものだろうか。腰に薄手のシャツを巻き、ひざ下丈のクロップドパンツを履いている。くたびれたバックパックを肩から下げており、伊野田とは対照的に地元民らしい恰好だった。肌はもともと日焼けしたような色だから、なんの違和感もなく、服装のせいか実年齢より若く見える。もともと伊野田より年下のはずだが、今日の拓は25,6ほどに見えた。上から下まで熟視して伊野田が口を開いた。口元にうっすら笑みを浮かべている。
「なんていうか、観光客に道聞かれそうだな」
「……もう聞かれた」
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