3-3 察してもらおうだなんて思うなよ、その口は何のためについてんだ
相手の顔を見た途端に、一瞬でしけた顔つきに切り替わったが。伊野田の背後にいた男は眉間に寄せた皺に不機嫌を集中させているような面持ちでこちらを見下ろしている。
右手でサングラスをつまんでいるので、それで肩に触れたのだろう。堀の深い顔立ちに窪んだ眼窩でそこに立つ様は、暗いところで遭遇すれば幽霊と間違えられても弁明できないだろうと、伊野田はいつも思う。
彼は心の中でしゃあしゃあと舌を出しつつ、にこやかな顔に切り替えて店員に向き直り、「あとふたつ追加で同じのもらっていい?」とお願いした。彼女は「もちろん」と言い、トースターに素早くパンを放り込んだ。奥からもう一人年配の店員がサロンを巻きながら顔をだし、作業のフォローを始めている。
伊野田の後ろにいた男は広場のベンチを一瞥し、そちらに首を振った後で去っていった。あちらに来い、と言う事だろうか。
少し待ってから追加のクラフトボックスも受取ると、彼女は「フードコンテストやっているから、うちに投票よろしくね」といって手を振った。
伊野田はお礼を言って、広場に戻った。ベンチには笠原拓が座っており、何やらドリンクを飲んでいる。その脇に先ほどの男、琴平が彫刻のような姿勢で腕を組んで立っていた。
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