3-4 お経聞いてると、眠たくなるのはなんでだろうな

「きみはいったい、いくつになったんだね?」


 伊野田が合流するや否や、男は組んでいた腕を解きながら低くじっとりとした声色で小言を述べた。ずっと聞いていると夜中にうなされそうな、お経を読むような言い方である。


 その傍らでは笠原拓が、”またいつもの説教がはじまったよ…”といった顔をしつつ、少し面白がるように伊野田を見ていた。拓の視線に気づいた伊野田は口の端に力を入れて、わざと拓を睨み返す。頭上では男の説教が続いていた。


「服は脱いだら脱ぎっぱなし、行先も告げない。電話にもでない。酒ばかり飲む……」

「おれなりに情報収集してるんだよ」


 放っておけば永遠と続きそうだったので、しびれを切らした伊野田は反論し、ふたりにサンドイッチを手渡した。代わりに琴平から薄手のパーカーを手渡され、伊野田はしぶしぶ袖を通す。義手を隠せという意味だろうなと思いつつ、そこまで神経質にならなくても良いのではという言葉は飲み込んでおいた。


「きみには説教が必要なようだな」

「今のは説教じゃないわけ? もう聞いたし、仕事もちゃんとしてるよ。市街地のマップも頭に叩き込んでるし、旧式オートマタの状態や万が一”あいつ”が転送してきたときの対応も考えてる。デザイナーベイビーの探し方も、怪しい奴がいないかどうかの偵察もね。まだ弁明が必要? とりあえず食べたら? 美味いもんでも食べればイラつきもおさまるぞ」


「誰のせいだと思っているんだね」

 言いながら琴平もベンチに腰掛け、3人はクラフトボックスを開いた。しばし無言だったが、誰かの「ウマイな」という言葉につられて、2人も「うまいな」「……美味いな」と口にした。


 何口か味わった後、伊野田が「ちょっとビール…」と席を離れようとすると、琴平に後ろからフードを掴まれた。息を詰まらせた伊野田とは逆に、拓が笑い声をあげた。



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