2-2 あんまり怖い顔してると、眉間に皺の跡が残るぞ?

 伊野田と拓は今、海岸に続く道の途中にある小さな広場にいた。ドリンクカートやジェラート屋の他、小さな土産屋が軒を連ねている休憩スポットのようなものだろう。どこもかしこも程よく賑わっており、明るい声が絶えない。


 平和じゃないか。


 拓はベンチに座ったまま両手を組んで真上に伸びてみる。温暖な気候は悪くないが、日陰が恋しい時刻でもある。帽子を買えばよかったなと思っていると、自分に黒い影が覆いかぶさった。


 突如不穏な気分になり、腰を捩じって体ごと振り返ると、そこには(自分が座っているからだろうが)背が高く恰幅の良い中年の男が感情のあまり籠らない瞳でこちらを見下ろしていた。思わず声を漏らしそうになるが、知った顔だ。


 男は「待たせたね」と言いながら周辺を見渡している。


 普段はカッチリとしたスーツスタイルで身を固めているのだが、この街ではさすがに暑いし浮くからだろう。馴染む服装に着替えていた。落ち着いた藍色のシルクシャツに合わせているのはロールアップした8分丈のパンツ。これにエスパドリーユを履いている。グレイヘアはいつものオールバックだが、今日は中折れ帽を被っていた。


 一見してどれも質の良いものだとわかる。もしサングラスまでかけていたら、どこかのマフィアと思われて立入拒否でもされそうな風貌だ。


 拓は苦笑いを浮かべてから、「あ、琴平さん。あいつなら向こうに……」と言いながら広場にいる伊野田を指さした。琴平と呼ばれた男は僅かに目を細め眉間に皺を寄せると、ゆっくりとした足取りで広場の方へと向かって行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る