第13話 学園生活〜俺のお弁当が狙われているのだが?

 一時間目の授業は自己紹介で潰れたがその後の授業はちゃんと受けた。視線は凄かったけど。


 あと何故か鼻血を出して保健室に行く人が多発して、4時間目にはクラスの半分の女子がいなくなっていた。


「お昼になりましたね隼人さん」


 隣の席のみぞれさんがニッコリとした笑顔で言ってくれる。


「なんか長かったような、短かったような。でもこれだけは確実に言える、すごく疲れた」


 授業中の視線といい、発表したらキャーキャー言われるし……。一つ一つ行動するごとに注目されるから疲れた。


「ではこちらをお飲みください」


 そう言うと、みぞれさんは鞄の中から水筒を取り出し、コップの部分に飲み物を注いで渡してくれた。


「ありがとう」


 おおーこれは心が安らぐようだー。


「なんか少し酸っぱいね、このお茶」


 苦いお茶の中に酸味がある。まぁ美味しいけど。


「お茶にほんの少し梅を入れています。梅干しは疲れを軽減する効果がありますから」


「じゃあ今の俺にピッタリだね」


 みぞれさんって物知りだな。優しいし、絶対いいお嫁さんになれる。


「ところで、これから昼食になりますが隼人さんは売店や学食に行かれますか?」


「いや、俺はお弁当があるから行かないよ」


 お弁当を取り出し、見せるとみぞれさんは目を丸くしていた。


「まぁ! ご家族の方のですか?」


「ううん。


 その瞬間、教室がシーンと静まり返った。

 何やら俺のお弁当に視線が注がれているような気する。


「まぁ!」


 みぞれさんは控えめにパチパチと手を叩いていた。


「ちなみにみぞれさんは?」


「私は……これです」


 ドン!!


 そんな鈍い音をたてながら机の上に置かれたのは三段重ねの重箱。


 えっ、重箱!? お弁当がお重箱!?


「両親が仕事で忙しいので料理は専属のシェフがしてくれています」


「へっ、へー……」


 やっぱりみぞれさんってお嬢様だったか……。見た目といい口調がそうっぽいもんな。


 重箱の中身を見るとお肉、魚、サラダ、デザートなど料理が区切られたものが綺麗に盛り付けられている。


 そんな重箱に目線をやりつつ、自分で作ったミニハンバーグを口に放り込んだ。


「ジー」


 みぞれさんがジーと俺の方を見ていたことに気づいた。


「み、みぞれさん? 俺の顔になんかついてる?」


「いえ、ついてはいませんが……。実は私、家庭の料理をあまり食べたことがないんです」


 さっき言ってた両親が忙しいことと関係があるのだろう。高級料理もいいが、家庭の味も中々いいと思う。


「俺ので良かったら食べる?」


「い、いいんですか!?」


 俺がそう提案するとみぞれさんはパァァァと顔を輝かせて喜んでくれてた。


「では私のお重箱と交換ということで」


「えっ」


 手に取っていたお弁当を取られ、代わりに俺の机の上に置かれた重箱。


 これ絶対三つ星シェフととが作ったやつでしょ? 輝いてるもん。おかずが輝いてる。


 俺が驚いている間にみぞれさんがだし巻き卵を口に入れた。


「ん〜! 美味しいです〜」


 頬に手を当て本当に美味しそうな顔をしているみぞれさん。


「卵の甘みを残しつつ、それを邪魔しない出汁の風味と味。こぞまさしくだし巻き卵!」


 凄い……グルメレポーター並みの食レポをしている。ただの家庭のお弁当で。


「男のお弁当!? いいなー」

「でも、みぞれさんには逆らえないわね……」

「羨ましい〜」


 そんなみぞれさんを羨ましそうに見る他の女子生徒。いうかクラスメイト以外の女子生徒が増えているのは気のせいだろうか?


 そんな美味しそうに食べるみぞれさんを見ていたらお腹が空いてきたので俺もローストビーフを口に入れた。


「うまっ!?」


 なんだこれっ!?

 ジューシーなお肉はもちろん、上にかかってるソースもめちゃくちゃうまい!

 あまりの美味しさに箸が止まらない。


 こうして俺とみぞれさんはそれぞれのお弁当を堪能した。




「隼人さん」


「ん?」


 再びみぞれさんが入れてくれたお茶を飲みながら耳を傾ける。


「また作ってきてくれますか?」


 あんな美味しそうに食べてくれていたんだ。断る理由がない。


「もちろん」


 俺は当然、オッケーした。


「では次はフォアグラやキャビアなどを———」


「み、三つ星シェフはもういいよ!? 俺のお弁当と割に合わないから!?」


「でも……」


 みぞれさんは少し価値観が狂っているかも知れないな。

 お昼の時間も密かな楽しみになりそうだ。



 

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