貞操観念逆転世界〜俺は引きこもりの学生に転生したようだが?

悠/陽波ゆうい

第一章 男女比1:100の貞操観念逆転世界に転生!?

第1話 突然の転生〜訳がわからない世界にきたようだが

「隼人」

「お兄ちゃん」

「隼人、くん……」

「隼人さん」

「「トーくん」」


 俺を囲む彼女たちは皆、妖艶な瞳をこちらに向け、不敵に微笑んでいた。その姿はまるで誘惑しているようだ。


「ゴクリ……」


 思わず唾を飲む。

 近づくたびに甘い果実のような匂いが鼻に抜ける。頭がクラクラする。

 

 俺の名前は長谷川蒼はせがわそうどこにでもいる男子高校生

 今の名前は鳴海隼人なるみはやと。何故、こんな状況になったのか。

 それは俺自身にも全くわからない——。




「ふぁぁ〜……眠い……」


 大きなあくびをしながら登校する月曜日。週明けとあって体が重だるい。


 俺は長谷川蒼はせがわそう。どこにでもいる中肉中背の男子高校生。友達からはよく鈍感野郎と言われるが特に気にしてない。


 朝の朝礼までは学校で寝よう……


 そう思いながらいつもの公園を通り過ぎた時だった。


「ボール待って~~」

「ん?」


 幼い男の子の声だろうか?振り返った先は道路に出たボールを男の子が取りに行く光景……だけであって欲しかった。


「車……」


 ゆらゆらと蛇行運転をする車が男の子の後ろに迫ってきていた。

 運転手は……つう伏せになっている。

 男の子もボールを取ることに集中していて気づいていない。


 男の子のすぐそばまで車が来たが、止まる気配がない。


「行くしかないか……ッ」


 俺はバックを投げ捨て、急いで男の子の元へ向かった。


「くそッ、間に合ぇぇぇぇ!!」


 ドゴォォォン!!


 次の瞬間、身体にとてつもない衝撃が走った。


「アガッ……!?」


 日常生活において感じたことがない痛み。痛くて痛くて……ただ頭の中で痛い痛いと唱えることしかできない。


(ヤバイ……息ができない……。お、男の子は無事、なのか……)


 突き飛ばした男の子の方を見ると、ボールを抱きしめ、俺の方を青ざめた表情で見ていた。


(最後に人助けできて良かったな……これはもう、天国いきだろ……)


 しばらくすると人の悲鳴、サイレンの音が聞こえてきたが、俺の意識はここで途絶えた。




「ん……ここは……どこだ…?」


 目を開けると知らない天井。

 意識が徐々にハッキリしてきてここが病院だと認識する。


 俺はトラックに跳ねられて……。どうやら助かったようだな。身体がおもだるい……。事故の後遺症とかなければいいけど。


 そんな心配をしていると部屋に女性が入ってきた。ナース服から看護師さんだろう。そしてその看護師さんと目が合う。


「…………」


 看護師さんが驚いた表情で俺を見ている。


 俺が起きていたからビックリしているのか?


 カタンッ


「な、な、な、」


 手に持っていたボードを落とし、ワナワナと震え出した。


「な、隼人様が起きてる!? す、すぐに先生とお母様をお呼び致しますので少々お待ちください!!」


「あ、あの……!」


 俺が質問する前に看護師さんは深くお辞儀をしてそのまま勢いよく病室を出ていった。


「えぇ……起きただけで大袈裟な……」


 と思いつつも、先程の看護師さん美人だったなと呑気に考える。


「しかし、無事に生きててよかったなぁー…あっ?」


 思いふと横にあった鏡を見る。

 そこに写っているのは当然、自分の顔のはずなのだが……。


「誰だこいつ!? 俺の顔じゃない!?」


 目の前の鏡には知らない男が写っていた。同じ歳で黒髪マッシュの中肉中背といったところだ。

 

「俺は長谷川なんだが……。まさか……!」


 俺は急いで後ろの名前のプレートを見てみる。そこには『鳴海隼人様』と書かれていた。


 ドタバタドタバタ

 

 少し経った後、今度は複数の足音が聞こえてきた。そして病室のドアが勢いよく開けられる。


「はぁ君!」

 

  最初に目に入ったのは、息を切らしているスーツ姿の女性。綺麗に手入れされた黒髪のストレートにシャツを押し上げる豊満な胸。とても美人な人だ。


「はぁ君大丈夫!」


「だ、大丈夫だよ」


「よがった……じんばいでしたよぉ〜〜!! はぁ君が急に倒れたからっひくっ……このまま目が覚めなかったらって思ったら……涙が溢れてきてぇ〜〜!!」

 

 女性は目に大粒の涙を浮かべながら俺に抱きついてきた。


「くっ、苦しい……」


「わわ、ごめんねはぁ君! 気持ち悪かったよね……?」


「気持ち悪い? 全然そんなことはないよ。ただ今は目が覚めたばかりで混乱してて……。ごめんなさい」


「えっ……はぁ君が謝った……?」


俺、何か変なこと言ったか?

 チラリと看護師さん達の方を見ると、俺の言動に驚きの表情を浮かべていた。


 さっぱり意味が分からず首を傾げる。


 スーツの女性の後ろから、白衣を着た女性の先生が前に出る。


「院長の吉田と申します。隼人様の目が覚めて良かったです。隼人様は自宅の階段から転落して気を失っていたようです」


「そうなんですか……?」

 

「はぁ君が倒れていた時はそれはもうびっくりしちゃって……。それでもう二度と、はぁ君と会えないと思って……」


 思い出したのか、また泣き出す女性。


「でも、こうして無事で良かったよ。うえーん」


俺に抱きつきてきたので、ポンポンと優しく肩を撫でる。


 こんな感動の場面で水をさすようなことを言うけど……


「あの、あなたはでしょうか?」

「えっ……」


 本当にどちら様か知らない。

 俺の言葉に女性はみるみる青ざめて——


「いやだぁぁぁーー!! うそぉぉぉーー!!」


 大粒の涙をさらに流した。





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