第24話 もう一人の男と男女が平等な世界 *

 目覚めたら病院だった。それは分かる。俺は自宅の階段から足を滑らせて頭を強打したから。


 なのに……。


「長谷川くんは道路に出た子供を助けてところ、トラックに轢かれました」


 男の医者はこう述べている。


「運転の方は心臓麻痺で気を失っていました。今はこちらの病院で入院して、目が覚めたようです。長谷川さんの入院費と治療費は相手様が負担されるとのことでした」


 おかしい。俺はトラックに何で轢かれていない。


「ご両親は今、海外から急いで帰国されています。明日には着くとのことです」


 ご両親。俺には母しかいないはず。


 何もかもが他違う。まるで他人の情報のようだ。


 ふと、横にあった置き鏡を見ると、俺とは違う顔が写っていた。

 悲鳴をあげそうになったが、なにせ包帯グルグルで痛みがあったので、無理には動けなかった。


 年はだいたい俺と同じ。

 顔のパーツはまさに黄金比で並べられており、イケメンだ。

 男が貴重であっても、イケメンは変わらず人気者だ。こいつは相当モテてきた人生だったのだろう。


「そーくん、本当に良かった!」


 ふと、隣から声が上がる。

 女の子が心配に声をかけた思えば、俺の手を握ってきて……


「ひっ、お、お、お、女ッ!」


「きゃっ」


 手を握られそうになった俺は咄嗟にドンと彼女を突き飛ばしてしまう。


「っと……おい蒼! いきなり早瀬を突き飛ばすなんて酷いじゃないか!」


 突き飛ばした女の子を抱きしめ、怒ったように俺に言う男。


「いや、だって……」


 だってそいつは女だぞ? 何故庇う。貴重な男に媚び、俺たちを獲物を狙うような鋭い瞳で見る女だぞ。そんな女が手を握ろうとしたんだ。悪いのは全部そいつだ。


「おい蒼! 早瀬だぞ。お前の幼馴染だぞ!」


「いや、女だし……」


「はぁ? 何寝ぼけたこと言ってるんだ! 早瀬が女の子なんて当たり前だろ! お前、事故にあって女性恐怖感になったのかっ!」


「えっ……」


 おかしい。女性恐怖症? そんなの男子が貴重な世界では当たり前だろ?


 その言い方じゃまるで、女がいるのがみたいじゃないか……!


「長谷川くんはまだ目覚めたばかりで多少混乱してるのでしょう。少し様子を見ましょう」


「そーくん……」


「蒼、しっかり寝て落ち着いたらまずは早瀬を突き飛ばしたこと謝れよ」


 男はそう告げ、早瀬と呼ばれる女の子と病室を出ていった。


「では我々も一旦失礼します」


 男の医者も女の看護師も去っていった。


「一体どうなってんだ……」


 名前や身体は違うし、女は普通にいても誰も不思議がらないし……俺はもしや、違う世界に来てしまったのか?


 何もかもが分からず混乱のまま、とりあえずゆっくり目を閉じた。

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