第25話 生徒会長が迫ってきたのですが?

 ミーンミンミンミーン


 蝉の音もうるさくなってきた7月中旬。本科的に暑くなってきた。

 

「は? お前、バイトすんのか」


「ああ、水着ファミレスでしようかなーと思って」

 

 屋上で颯太と湊と昼飯を食べていると、俺がバイトする話になった。


「おまっ、それ自分から女に襲ってくださいと言ってるもんだぞ」


「いくら隼人くんが女の子に優しいからって、バイトは危険じゃないかな?」


 なお、颯太と湊には絶賛反対されている。


「陽茉利さんとみぞれさんも一緒にしてくれるって言ってたし大丈夫だよ」


「まぁ、あの2人がいるなら少しはマシだが……。ちなみに親には言ったのか?」


 うっ、痛いところを突いてくるな。


「……ま、まぁこれから」


「これは喧嘩になりそうだね、あはは……」


 まぁ、なんとかしないとな。


「ところで2人はこの夏、何するとか決まってんの?」


「俺は普段と変わらず家でゲームしたり、ラノベ読んだりとかだな。あと、隼人に言われた筋トレと食事管理」


 颯太の弁当の中身を見てみると、鶏のササミに蒸し野菜とヘルシーだ。

 外見もシュッとしてきて、夏休みが開けたら細マッチョイケメンになっているのだろう。


「そっか。ちゃんと痩せたら3人でお祝いに飯食いに行こうぜ」


 思わず嬉しくなって微笑む。


「この天然たらしめっ……」


 颯太の顔が赤い。

 日差しにやられてなきゃいいが。


「湊は?」


「僕は去年は山奥にあるおばあちゃんの家で過ごしたから、今年もかな。ここら辺は1人が多いし……」


 湊は可愛いから襲われでもしたら大変だ。


「俺はバイトと……あとは家族に任せてる」


「お前、本当にバイトすんのか? 女子の間ではビッチ説流れてるぞ」


 山路さんの時も言われたな。


「いや、俺誰とも付き合ってないし、襲ってないし」


 弁解すると、颯太がはぁとため息をついた。


「あのな、女子の噂話に遠慮の2文字はないんだよ。好き勝手に自分の妄想を流して、それを口実に襲ってくるやつだっているんだよ」


「お、おう……」


 真剣話す颯太の姿にゴクリと唾を飲む。


「それに、隼人が家から出なったら、俺だって寂しいし……」


「颯太……」


「僕もだよ。卒業までずっとこの3人でいたいもんっ!」


「湊……」


 これが男の友情。なんて素晴らしいものなんだ……。



 放課後。今日はみんな用事があるので、俺1人で帰る。


 靴箱に行こうとした時、見覚えのある人物が近づいてきた。


「やぁ弟君」


「会長……!」


 この人は姉さんの友達で生徒会長の神宮寺姫与じんぐうじちよ先輩。


「覚えていてもらえて嬉しいよ。急だが、今から僕と一緒に生徒会室に来てもらえないかな」


「生徒会室にですか?」


「ああ。クーラーが付いてて涼しいし、お菓子もあるよ」


「俺はそんなのに釣られる子供じゃないっすよ……」


「まぁ、男手が欲しくて困っていたらちょっと弟くんが見えたから声を掛けたんだよ。ちょっと手伝ってもらえないかな?」


「そういうことなら、まぁ……」


 会長の後についていき、生徒会室に入る。

 すると、会長が申し訳なさそうな表情をして、


「……ごめん、白状するよ。仕事を手伝ってもらいたいというのは嘘。本当は、君ともうちょっと話をしたかったんだ。迷惑かな?」


 つまり、さっきのは俺を生徒会室に連れてくる口実。

 こんなの、俺が逆に言われたら断れないよな。


「いえ、大丈夫です。俺も会長とは一度ゆっくり話してみたかったので」


 ソファーに腰を下ろし、お菓子を摘みながら雑談する。


「仕事は大丈夫なんですか?」


「うん。夏休み前だからもう終わらしたよ。夏休みまで借り出されたらたまったもんじゃないからね」


「そりゃそうですよね。それで、本題はなんですか?」


 俺がそう聞くと、会長は紅茶の入ったカップを置いた。


「隼人くんには生徒会に入ってもらいたい。これが僕の要望だね。でも無理に強制させるつもりもないよ。まずはお試し期間で入ってもらえると嬉しいかな」


 生徒会。

 姉さんもいるし、多少は安全なところだと思う。

 

「今は主に、陽茉利さんとみぞれさんに守ってもらっているようだけど、彼女たちも放課後は忙しいだろう。そんな時生徒会にいれば安心だよね」


「つまり、保護する代わりに生徒会役員になれと」


「そういうこと。それ以外にも、男の弟くんの言う事はみんな聞きそうだし。さすがに僕だけじゃまとめきれない部分もあるよ」


 男が優遇される世界なら、男の頼み事の方が素直に聞いてくれそうという認識は確かにある。


 俺や他の男が学校で襲われていないもの、きっと生徒会が裏から手を回したりしてくれているに違いない。


「お試しなら、いいですよ」


「そっか。ありがとう」


 会長の微笑みに一瞬、ドキッと胸が鳴る。

 佇まいといい、口調といいほんとカッコいい人だよなぁ……。


「ふふ、それにしても弟くんは無防備だ。こうやって僕と2人っきりの空間にもホイホイついてくるし。まだ、女を知らないのかな?」


「なっ……」


 会長が顔を近づけ、俺の顎をクイッと触る。これは顎クイじゃないか。


「僕じゃダメかい?」


「え、ダメってどういうことですか……?」


「女の子にわざわざ説明させるつもり? それは……こういう事かな」


「あ、あの……!?」


 会長の顔が近づいできたので、思わず目を瞑った時、ガチャと扉が開いた。


「姫与ー、この資料なんだけ……ど」


 生徒会室に入ってきたのは姉さん。

 目線が合うなり、手に持っていた紙を落とした。


「あーあ。見つかっちゃったね」


「ね、姉さん……! こ、これは……!」


 姉さんは驚愕の表情を浮かべ、肩を震わせたと思えば、


「私の弟に手を出さないでーーっ!」


 その後、しばらく姉さんが身体から離れてくれなかった。



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