第5話 新しい世界での生活〜俺は引きこもりのままでいいらしいのだが?
「ん、うーん……」
誰かが俺の身体をゆさゆさ揺らしている。まだ眠い……。
「——ちゃんきて。お兄ちゃん起きて……!」
「うおっ、遅刻する!!」
大声を出され、バッとベットから起き上がる。隣をみると妹の加奈の姿があった。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは学校には行かないから」
「えっ、引きこもりのままでいいってことか?」
「何言ってるの。当たり前だよ~。お兄ちゃんは男の子だからね。学校には行かなくてもいいから家からは出たらダメだよ」
「お、おう……」
「でも朝ごはんは一緒に食べよね」
まじか。男は学校に行かなくていいのか。また疑問ができてしまった。
ベッドから立ち上がり、腕を伸ばしていると、加奈が顔を赤らめて自分の顔を隠すように手で覆った。
「お、お兄ちゃん……! そんな露出ある格好で家の中をウロウロしたらダメ……!」
「えっ?」
俺の今の格好は短パンに上はワイシャツというごく普通の格好だ。
「露出? これがか?」
とシャツをパタパタと動かす。
「だ、だめ! 早く着替えて!!」
「え、えー」
肌が出ない服に強制的に着替えさせられた俺は、加奈と一緒に一階にあるリビングに降りる。
「今度はジャンケンに勝ってお姉ちゃんが隼人起こしに行くもん……」
「次はお母さんが……」
中に入ると、すでに席についている母さんと姉さんが悔しそうに加奈を見つめていた。
「ふっふ~ん。次もわたしが勝つもん」
バチバチバチ
俺を巡ってか、火花が散る。
どうやら俺を起こすのはジャンケンに勝った人らしい。
「温かいうちに朝ごはん食べよ……」
頼むから俺を取り合わないでくれ。家族なんだから。
男女比がおかしくなると家族内の喧嘩も増えるのか。覚えておこう。
◆
朝ご飯を食べ終え、俺以外の3人は出かけるようだ。ちなみに母さんの職業は金融関係。俺が男じゃなくてもお金持ちなのだ。
「それじゃあお母さん達は行くけど、戸締りはしっかりしとくのよ、はぁ君」
「何かあったらお姉ちゃんに連絡していいからね」
「気をつけてねお兄ちゃん」
なぜか家にいるのに心配される俺。普通だったたら逆だよな。
「みんなの方こそ気をつけてね」
「「「はぅ!!」」」
無意識に微笑んだら案の定3人が幸せそうな、そんな顔をしていた。もうこの光景も見慣れたな。
三人がいなくなり、家は俺1人になった。
こんな広い家に1人だとなんか寂しいな……。
「これから何しよう。耐性的に引きこもるのはちょっとな。……少しだけ、少しなら外に出ていいかな」
外の世界がどうなっているかも気になるし、ちょっとだけならいいよな?
俺はパーカーに帽子という完全武装に着替えて家を出た。
ただ外に出るだけなのにこんな完全装備をするのは芸能人くらいだろう。
チラチラ
外に出て数分、やけに視線を感じる。変装してもここまで目立つとは。ちゃんと隠しているはずなのに。
「あの男の人、超カッコいい~」
「変装しても滲み出るイケメンオーラ」
「お近づきになりたい~」
すれ違い様にそんなことを言われる。
しかも獲物を狙うような鋭い眼光で俺を見ているような気な……。なんか女性が怖くなりそうだ。隼人が女嫌いになったのも分かるような……。
「あっ、コンビニがある。しょうがない、今日はお菓子でも買ってここで大人しく帰ろう」
身の危険を感じ、コンビニに行って後、大人しく帰ることにした。
ピロリンピロリン〜
「いらっしゃっいま——えっ!?男の人!?」
レジの店員のお姉さんが俺を見るなり驚いている様子だ。本当に男は珍しいんだな。
「すいません、なんか……」
「い、いえ。こちらこそ驚いてしまいすいません。どうぞごゆっくり」
コンビニにごゆっくりもないと思うけど。
俺は早速お菓子コーナーに向かった。
「博多明太子、味噌ラーメン味……。最近のポテチはいろんな味があるんだなぁ。でもやっぱ梅味だな」
「梅味美味しいですよね~」
「ですよね——って!?」
びっくりした。いつのまにかさっきのレジのお姉さんが隣にいたのだから。
「梅、私の大好きなんですよ〜」
「そ、そうなんですねー。じゃあこれ買います。あとチョコも。お会計お願いできますか?」
「はいもちろん♪」
満面の笑みを浮かべるレジのお姉さんに、「急いで帰れ!」と俺の五感が警告している。
会計を終え、お釣りを受け取るときやけに手を握られたが、それ以降は何もなかった。
ちなみに帰りは全力で走って帰った。
「ふう、やっぱ外は危険そうだな……。買ってきたお菓子食べるか。食べたら筋トレしよ」
本当は買う予定のなかったお菓子を買ったので、しっかりカロリー消費しなきゃな。
こうして俺はまた部屋に篭ることにしたのだった。
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