第17話 喰わっ……喰わっ……あぁぁぁぁぁぁ!?

「………」


 休日のお昼。人通りが一番多くなる時間帯である。そんな中、俺はショッピング街に1、立たされていた。


 なぜこうなったのか。それは一時間前に遡る。


 ———— 一時間前・・・


「みんな、いい人ばっかりだね」


 金曜日の夜、一週間学園に行った感想を姉さんと加奈の前で言う。ちなみに母さんはママ会だそうだ。


「もう、お兄ちゃん! 簡単に信じちゃダメっ!」


「そうよ! 友達が陽茉利ちゃんやみぞれちゃんみたいないい子だから良いけど、それ以外の女はダメっ!」


 相変わらず二人はそう言う。

 貞操が逆転したからって、元々の人の人格が変わる訳じゃないし、日本人はいい人が多いから、前世とあまり変わらない高校生活が送れそうだ。


「姉さん達は過保護すぎるんだよ」


 笑いながらそう言うと、急に姉さんが深刻そうな顔になった。


「……分かったわ」


「もしかしてお姉ちゃん、アレをする気……? だめだよ! そんなの私が許さない!」


「加奈っ! これは隼人のためでもあるの! ここで経験させとかないと、隼人が女に喰われちゃうわよっ!」


 二人が鬼気迫ったような言い合いをしている。俺だけ置いてきぼりだ。


「隼人、今からお姉ちゃんが言う事を明日してもらうわよ」


「う、うん……なに?」


「明日、1人で外に出てみなさい」


   

 ということで俺は今、一人で立たされている。

 立たされて数分が経つ。目立ってはいるものの、未だ誰にも話しかけられない。

 やっぱり喰われるなんて嘘———


「あのぉ〜」

「1人ですかぁ〜?」


 すると二人組の女の子達に声を掛けられた。見た目は派手な格好をしており、一言で言うならギャルだ。


「えっ、あっ、1人というか1人じゃないというか……」


 物陰で姉さんと加奈が見守っているんですよー…。


「でも今は一人ですよねぇ〜?」

「じゃあ、あたし達と一緒にいい事しません?」


 これが逆ナンというものか。初めて経験した。いい事というのは分からないが、ついて行ったら危なそうだ。


「いや、遠慮します」


「そんな固くならないでぇ〜」

「一回だけだから〜」


「断ります」


「お願い〜」

「いいでしょ〜」


「断ります」


 こんなやりとりを数回している内にだんだんギャルの人達の口調が荒くなった。


「なんだとごらっ!?」

「優しく接してやってんだろっ!?」


「こ、断ります」


「ごらっ、早くついてこいっ!?」

「ホテルに行くぞっ!?」


「えぇ……断ります……」


 しまいには腕を掴まれた。

 振り解こうとしたが、中々離れない。

 あれっ? 思いの外、力が強い……。


「お前らもこいっ!」


 すると、どこからかギャルぽい人達が来て……。


  この力を持つ人が6人もいたら流石に負ける。

 あれっ? これ、本当に連れていかれて喰われるんじゃね? あれ? 危なくない?

 

 身の危険を感じたのでSOSを出すことにした。


「ね、姉さん、加奈っ、助けてぇぇぇぇーー!!」


 と。


 その後、駆けつけてくれた姉さん達によってギャル達は撃退された。姉さんと加奈は空手などの武道を習っていたらしい。


 強いね……。



「オンナノココワイオンナノココワイオンナノココワイ……」


 ショッピング街から離れて自宅へと帰ってきた俺たち。俺はというと加奈に膝枕をされながら震えていた。


「よしよし〜お兄ちゃん、大丈夫?」


 加奈が優しく頭を撫でてくれる。その時、胸が当たっているが今はそんな事を考えてる暇はなかった。


「お姉ちゃんっ! やっぱりやり過ぎだよ! お兄ちゃんこんなに怯えてるし……」


 姉さんはというと立って俺たちの様子を見ていた。


「あ、あれは分からせるためであって……」


 加奈が怒っているからなのか、姉さんの声は震えていた。


「下手したら、私達まで嫌われてちゃうよ……!」


「うぅ……それは……」


 加奈は「はぁ……」とため息をつくと、俺の頭を撫でるのをやめた。


「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんは……加奈のこと、好き……?」


 俺のことを悲しそうな瞳で見つめる加奈。


「う、うん……。加奈のことは好きだよ……」


「わ、私は!? ね、姉さんは?」


「姉さんも好きだよ……」


「なら、いいよ」


 その後の2人は何やら話していた。俺はというといつの間にか眠りについていた。


「ねぇ、お姉ちゃん。いっそのことお兄ちゃんを閉じ込めておく?」


「そうね。私達以外の誰にも、触れさせないように……」


 眠っていた俺には2人のそんな会話を知るよしもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る