夏、到来!

第27話 水着ファミレスでバイトしたいと言ったら、予想外なのだが?

「俺、水着ファミレスでバイトしたい!」


 夏休み初日。

 昼下がりでゆっくりとした時間に、みんなに向けてそう告げる。


 下手に誤魔化すようなことはしない。しかし、念のため陽茉利さんとみぞれさんと一緒にすることは伏せておく。


 ちなみに今家にいるのは、姉さん、加奈、楓音ちゃん汐音ちゃんの4人である。

 母さんは用事があると出かけていた。


「水着ファミレス〜? シノ、水着ファミレスってなんだろうねー」


「カノ、そのままの意味だよ〜。水着で接客をするバイトのこと〜」


 楓音ちゃん汐音ちゃんがアイスを食べながらのんびりと話している。

 この2人は逆に面白そうと言って一緒にやりたいとか言い出しそうだな。


 一方、姉さんと加奈は……


「お兄ちゃん?」


 加奈が物凄く引き攣った顔をしている。


「えーと、加奈さん……?」


「お兄ちゃん、この前の土曜日のこと、忘れたのかな?」


 加奈の言葉で思い出し、ゾクッとトラウマが過ぎる。


「お、覚えるぞ……?」


「だよね。すごく怖い思いをして、私に膝枕してもらったよね?」


 楓音ちゃん汐音ちゃんが「膝枕私たちもしたーい!」と声を上げたが、加奈が振り向くと2人とも、口を閉じた。


「シノ、加奈ちゃん怖いヨォ」


「カノ、ここは見守った方がいいね〜」


 味方である2人がいなくなったことで、俺は反対派の加奈と一対一。いや、姉さんも反対のような気がする。


「はぁ、お兄ちゃんは本当に無自覚で無防備……。いい加減気づかないと本当に襲われちゃうよ! ……他の人に襲われるくらいなら、私が……」


 最後の方は聞き取れかったが、俺のことを思っての言葉なのだろう。


 加奈と姉さんの納得を得なければ母さんには許してもらえなそうだ。


「ちなみに姉さんはどうなの?」


 視線をずらすと、姉さんは俯いていた顔をあげ、


「……行っちゃ嫌だ」


 ぽつりと呟いた。


「……ね、姉さん」


「本音を言えば水着ファミレスだなんて、女の子も多いし、露出もある危険な場所でバイトなんてして欲しくない。でも……縛りつけたら隼人にまた、嫌われてしまうかもだから……」


「姉さん……」


 そうだ。俺は鳴海隼人本人ではない。

 姉さんたちは俺が知らない、本物の鳴海隼人と今まで接してきた。

 記憶喪失で誤魔化しているものの、いつ記憶が戻るか内心はヒヤヒヤしているのだろう。


 リビングがシーンと静まる。


「……俺は絶対みんなを嫌いになったりしないよ」


 安心してもらえるよう、優しく微笑む。


「今回のバイトで危険な目にあったらもう、二度とこういった事はしない。だから、今回だけは許してもらえないかな」


 加奈は難しい顔をしたまま。

 姉さんは数秒、黙った後、


「じ、じゃあ……一つだけ条件がある」


「条件?」


 なんだろう。もしかして、自分も水着ファミレスでバイトするとか?


「わ、私と……」


「私と?」


して!」


「デートして……え」


「「「えーーーっ!!」」」


 俺が驚くよりも先に、加奈と楓音ちゃん汐音ちゃんが声を上げた。

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