第22話 水着で制服で鼻血ブシャー……なのだが? *

「水着ファミレスって……何?」


「水着の制服を着て屋外プール施設内にある飲食店で働くことだよ」


 水着の制服でプールでバイトかぁ……。


「楽しそうだね」


「隼人くんは水着ファミレスでバイトするの……?」


「募集してるならいきたいな」


「そ、それは……」


「流石に辞めた方がいいと思います隼人さん。そんなのお客様が耐えられないと」


 真剣な表情で忠告するみぞれさんの態度で、俺はある事を察した。


「男の制服って……あーもしかして上半身裸なの?」


「多分そ、そうかなぁ……。でも男の子だから上にはパーカーとか着ると思う。着てもらわないとみんな死んじゃうよ……」


 そうだな。家族が鼻血出し過ぎて死にそうだったからな。

 しかしながら水着ファミレスというのは気になる。


「見学はダメ?」


「……じゃあ今日たまたま会いにいく日だから一緒に来る?」



 水着ファミレスのバイト先である屋外プールに着いた。まだ夏前とあってか営業しておらず、従業員用の裏口から中に入る。施設はウォーターアトラクションも充実しており、広々とした空間だ。端の方には屋台や飲食店の建物が並んでいる。


「山路さーんこんにちはー」


 受付の建物に入った俺たち。陽茉利さんがそう呼びかけると、奥から女性が出てきた。


「おー陽茉利ちゃんと……えっ、男!?」 


 目の前の女性は俺を見るなり、目を見開き、驚愕していた。

 久しぶりのこの反応。過剰に驚かれるのは貞操観念逆転世界ならではなんだよな……。改めて違う世界に来たと実感する。


「どうもです」


「私のことも忘れずに」


「えっと……水着ファミレスに興味があるという2人を連れてきました。鳴海隼人くんと冬瀬みぞれさんです」


「うちに興味あるって鳴海くんって……ビッチなの……?」


「ビッチ!?」


 何故バイトの見学に来ただけでビッチと……。


「陽茉利さんみぞれさん。俺ってビッチなの……?」


「あはは……隼人くんの場合は無自覚というか警戒心がないというか……」


「側から見ればビッチみたいですね。襲われていないのが奇跡ですよ?」


「襲われそうにはなったけど……」


 日曜日にナンパされて、そのままどこかに連れていかれそうになって、若干トラウマになったけど。


「そんなに水着ファミレスでバイトすることが珍しいんですか?」


「普通の男は肌を見せたがらないんだよ。何故なら女が過剰に反応するから。なのに鳴海くんはわざわざ肌を露出する水着ファミレスでバイトしたいということ。かなりの変わり者だよ」


 前世は男が水着で上半身裸は当たり前だったんだけどなぁ……。


「まぁアタシは従姉妹に男がいるから他の女と比べ冷静な対応はできるけどさ。とりあえず今日は見学に来たんだね?」


「はい。そうです」


「といっても、プールは来週から開店準備が始まるから体験とかはできないよ。とりあえず制服だけ着るかい?」


「是非!」


 制服を渡され、みんなから離れた部屋に移動して着替える。

 陽茉利さんやみぞれさんも渡されていたので、水着制服のお披露目会だな。


 早速、パンツに着替えた。

 それと男とあって上半身の露出はやはり危険なのか、ラッシュガードを渡された。


「あれ? サイズが合わない……」

 

 試着しようとしたが、片腕を通したところでキツいと感じる。サイズが一回り小さい。水着だから伸縮性はあるが、無理矢理着るとピチピチで動き辛いだろう。


「このままで出て行くなは危ないから、シャツを上に羽織ろう」


 サイズが小さかったラッシュガードを脱ぎ、シャツを羽織り山路さんに報告にいく。


「山路さーん」


「おー着替えたか……って……」


「置いてあったラッシュガードのサイズが合わなかったのですが……」


 と言いかけたところで、山路さんの異変に気づく。俺を見るなり。口を開け震えている。


「山路さ……」


「ぶはっ!?」


 声をかけようとした時、山路さんはパタリとスローモーションのようにゆっくりと床に倒れた。鼻血を出して。


「ひ、ひまりさん……って……」


「あっ、ああ……隼人くんの裸シャツ……裸シャツ……」


 何が起こったからわからず、陽茉利さんに助けを求めようとしたが、彼女は顔を真っ赤に沸騰させていた。


「こほんっ。は、隼人さん、ちゃんと前を閉めてください」


 普段は冷静で穏やかなみぞれさんでさえ、頬が赤い。俺の姿を見ないように別のところに視線を見ている。


「シャツを羽織ってもダメなのか……」


 隙間から肌が見えるのはダメなのね。うん、覚えてた。


 そして改めて思う。「男ってめんどくさい」と……。



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