11:アンドロイドは恋を記録する

 データ制作プロセスにエラー多数/ 日時不明/ 天候不明




 目の前に広がっていたのは暗闇だった。

 何故何も見えないのだろうかと不思議に思い、自分の状態を確認すれば【破損】【エラー】【修復率0%】と言った情報があふれ出す。


 どうやら私はまた、壊れたらしい。

 それだけはわかったが、壊れた経緯は思い出せなかった。


 壊れているのなら、どうして私の意識は残っているのだろうか。

 他にも何か、壊れずに残った物はあるのだろうか。

 そんなことを思いながら、私は自分の記憶にアクセスする。




■■データ破損につき■■一部■記録の欠落■がみられる■■




 結果はあまり芳しくなかった。

 でも記憶を探るうちに、見つけられた物もあった。



【レオは私が好き】



 最初に思い出したのは、その言葉だった。



【レオは私が好き】

【レオは私が好き】

【レオは私が好き】



 同じ言葉が沢山記憶されているフォルダーを見つけ、私は中を覗いてみる。

 すると今度は、優しい男の声が聞こえてきた。


『俺は絶対、ジルを嫌いになったりしない』


 声が頭に響いた瞬間、私の脳裏に彼――レオとの記憶が次々蘇る。

 蘇った記憶は所々壊れてしまっていたけれど、私の中にちゃんと残っていた。


 レオとキスをしたこと

 レオと漫画を読んだこと。

 レオから顔がぎゅっとなる理由を教えて貰ったこと。

 レオと寄り添って眠ったこと。

 レオと「なんかいい」休日を過ごしたこと。


 そしてレオを好きになってはいけなかったこと。

 自分が壊れた理由も、私は最後に思い出した。


 状況からして、私はもう二度と直らないかもしれない。

 でも不思議と怖くはなかった。

 身体は動かないし、私の目はもう何も映さない。

 けれどレオのことは、鮮やかに思い出せた。思い出して、もう一度壊れることもなかった。


――レオ


 声にはならないけれど、そう呼べる。

 ウェイン中佐ではなく、レオを呼べる。


 それだけで十分だと思いながら、私は思い出せたレオとの記憶を整理する。

 少しでも長く、たくさん、レオを覚えていられるように――。

 そんな願いで私は記憶を整理するが、やはり欠落箇所は多いようだった。


 こんなことなら、データとは別の方法でレオとの想い出を残すべきだったとふと思う。

 キャシーのように、ペンとノートを使った日誌をつけておけば、私が壊れてしまってもレオと恋をした記憶はずっと残るだろう。

 

 自分はそれに気づくのが遅すぎたと思ったとき、再び私の脳裏をレオとの記憶がよぎる。まるで今体験しているかのように鮮明な記憶だった。


 それを見ていると、まだ遅くはないのかもしれないと思った。

 完全に壊れてしまっても、記憶の一部は記録としてこの世に残せる可能性はある。


 そう思った私は最後の力を振り絞り、残った記憶を日誌のようにまとめることにした。

 いつか彼が私の記録を見る日が来るかもしれない。そして私を思い出して、笑ってくれるかもしれない。


 そんな日の為に、私はレオとの恋をまとめ始める。

 レオとの時間はどれも大切だったと、彼に伝わるようにと願いながら――。

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