挿入されたデータ02
【外部データA8827/作成者レオナード=ウェイン/作成日4月29日】
家の片付けをしながら、この記録を残している。
本当は何も残さないで行くつもりだったのに、どうしても君に文句を言いたくなってしまったから。
俺はあまり物を買わない方だと思っていたけど、引っ越しの準備は意外と大変だ。
それもこれもジル、君のせいだ。
一緒に暮らしたのは一週間にも満たなかったのに、君はこの家に沢山のものを残した。
食器や歯ブラシなんて小さな物から、大きなハム二郎三世のぬいぐるみまで、この部屋には君の名残が多すぎる。
それを、結局俺は何一つ捨てられない。
だからグッズは理由をつけて君に贈ろうと思う。
日用品は、君が使っていたトランクルームを借りて、そこに仕舞っておこう。
次の仕事が終わって、もしも――もしも生きて帰ることが出来たら、俺は捨てられずにいた想い出の品と一緒に暮らそうと思う。
本当は君と一緒に暮らしたいけれど、キャシーの命令が消えないまま側にいたら……。そしてもし君が俺との記憶を取り戻したら、今度こそ完全に電脳は焼き切れ君は死んでしまうだろう。
関係を隠し、距離をおいて側にいることは出来るけど、それはキャシーが辛すぎる。
正直、君が倒れた直後はキャシーの事なんてどうでも良いと思った。けど一緒にいるうちに、俺と彼女は似たもの同士だと分かって、情がわいてしまったんだ。
キャシーは君のことが大好きで、凄く大事にしてる。
そんな子を、俺は嫌いでいることが出来ない。
でも好きになることも出来ない。
逆にキャシーも、俺を憎むことも嫌いになることも出来ないだろう。
この状況を利用して俺を束縛することも出来るのに、あの子はそうしない。
スト-カーまでしていた癖に、キャシーはあまりにピュアだ。そこがジルに似ている。二人は本当にいい親友だと思う。
――だから俺は、遠くに行こうと思う。
君と、君の大事なご主人様が幸せに暮らすには、それが一番良いと思うから。
そしてこのデータも、君が絶対に見ることの出来ない脳の深層部に隠す。
開けないデータなんて消した方が良いとも思ったけど、ジルを好きな気持ちを少しでも多く残しておきたい誘惑に負けてしまった。
だからこのデータと、ハム二郎三世のぬいぐるみを君に贈る。
君がいつもしていたように、ぬいぐるみの額に口づけも残しておくよ。そうすればきっと、いつか同じ場所に君がキスをしてくれる。間接的だけど、最後にもう一度だけキスが出来る。
そんな愚かな願いを残す俺を、どうか許して欲しい。
そして願わくば、時々で良いから――ウェイン中佐としてでも構わないから、俺のことを思い出して欲しい。
それが俺の、最後の望みだ――――。
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