04:恋人と木馬
第7宇宙歴123年/ 8月20日/ 快晴
『寂しい』を教えて貰った日から、レオは私に色々なことを教えてくれるようになった。
だから私も、分からないことをレオに聞くようになった。
「レオ、教えて欲しいことがあります」
「おっ、今日は何だ?」
「三角木馬と、普通の木馬は何が違うのですか?」
尋ねた瞬間、レオは飲んでいたビールをもの凄い勢いで噴き出した。
「な、何でそんなことを聞くんだ……」
「
その上、言葉を検索しようとしたら『そういうのはレオさんに聞きなさい!』と主に命令されてしまったのである。
「命令を破ったらアンドロイドは死んでしまいます。なのでレオに教わるしかなくて」
「……その知識は絶対いらない。だから君は三角木馬について知らなくていい」
「でも、主のお手伝いがしたいです」
「だが未来の恋人のためなら、君の主はむしろ自分一人で悩みたいはずだ」
「そういうものなのですか?」
「ああ。恋人のために色々考える時間は、楽しいものだしな」
どういった「楽しさ」なのと考えてみたが、答えは見つからない。
多分、私には理解が難しい「楽しさ」なのだろう。
「なら、邪魔は出来ませんね」
「寂しそうな声だな」
「普通の声です」
「でもそう聞こえた。そんなに、主の手助けをしたいのか?」
問いかけに、私は少し考える。
「手助けをすることで、主のことをもっとよく理解したいのです」
「君は、主人のことが好きなんだな」
「はい。だから色々と彼女を知って、今よりもっと役に立ちたいのですが……」
脳に欠陥があるせいで、私は普通のアンドロイドより物事の理解力が低く感情が乏しい。そのせいで、多感なティーンエイジャーの思考を解析するのは難しいのだ。
「主の気持ちや彼女の感じる『楽しい』を知るにはどうすればいいのでしょうか? 私も恋人を作ればわかるようになるのでしょうか?」
「……なら、俺の恋人になるか?」
ビールを置き、レオが私の側へとやってくる。
その顔はいつになく真剣で、私はつい見とれてしまった。
でも私は、彼の恋人にはなれない。
「私は、人ではないので無理です」
「このご時世、人間とアンドロイドが付き合ったり結婚するなんて珍しくないだろ」
「でもそれは、人間の部分を20%以上残すアンドロイドだけです」
私の肉体には19%しか人間の部分がない。だから私は『物』に属するアンドロイドだ。そして『物』は誰かと付き合ったりなどしない。
「誤差1%だろ」
「1%は誤差ではありません」
「俺にとっては誤差だよ」
言いながら、レオが私の唇を優しく奪う。
そうされると全身が心地よくなり、私は思わず目を閉じてしまう。
「自分でも驚いているが、俺は君が好きだしこの手で幸せにしたいとも思ってる。……だからジル、付き合おう」
「でも人と物はつきあったりしません」
「頑なだな」
「でもそれが普通です」
「なら俺は普通じゃなくていい。それに普通じゃない方が、君も好きだろう?」
例えばハム二郎三世も普通じゃないしと言われると、確かにその通りだった。
「ハム二郎三世みたいに、俺のことを好きになってほしい」
「ハム二郎三世のようには無理です。あなたは喋るボンレスハムではないので」
「どうやら、君を落とすのは難しそうだ」
「簡単です。そこの窓から投げて下さい」
「そういう意味じゃない」
ならどういう意味かと首をかしげていると、レオが私をぎゅっと抱きしめる
「とりあえず、君が理解しにくい話題だって事はわかった。だから今は、俺が君を好きだってことだけ記録してくれ」
「記録しました」
レオは私が好き。
レオは私が好き。
必要も無いのに、私は彼の言葉と一連のやりとりを二回も保存した。
消えないようにバックアップまで取った。
「絶対忘れるなよ?」
「忘れません」
念を押されたので、更にもう一度保存した。
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