03:とてもいけないこと

第7宇宙歴124年/ 3月31日/ 霧



「今日から、キャットに付き添って学校へ行ってくれないか?」


 月曜の朝、私はキャシーの父親からそんな打診をされた。

 このところ機械に身体を乗っ取られた人間やアンドロイドたちによるテロが増えている。そのためキャシーの学校では、戦闘型アンドロイドの携帯を一時的に許可するようだ。


「軍が学校にも兵を配備するそうだが、うちの可愛いキャットに何かあったらと不安でね」

「私で良ければ、お守り致します」

「パーティでもキャットを守ってくれたし、君がいれば安心だ」


 そして私は、生まれて初めて高校という場所に行くことになった。


 

■■データ破損につき■■一部■記録の欠落■がみられる■■

 


「……何だ、その格好は」

「格好より、私はウェイン中佐がキャシーの高校にいる理由が気になります」

「俺は仕事だ。ここに子供を通わせてる軍の高官から、わざわざ指名されてな……」


 最近検索して知ったが、ウェイン中佐はかなり名の知れた軍人だった。

 機械型生命体との戦争では大変な活躍をし、英雄とまで呼ばれているらしい。

 そんな相手が我が子の護衛なら安心だと思った軍の高官や支援者たちに推薦され、中佐はこの仕事を押しつけられたそうだ。


「あなたがいるならこの学校は安心ですね」

「……そんなことより、それはなんだ」

「それ?」

「だから格好だ。君が着ているのは、この学校の制服だろう?」

「はい。キャシーから、目立たないように着ろと言われまして」

「それのどこが目立たないんだ!」


 ウェイン中佐がじっと見ているのは、ジャケットとスカートの間から覗く私の腹部である。


「何でシャツをちゃんとおろさない! それにそのスカートの丈はどうした!? 今にも下着が見えそうだぞ」

「キャシーが、こうするのが普通だって」


 あえておへそが見えるようにシャツの裾を胸の下で結び、スカートは可能な限り短くするのが基本だそうだ。


「実際、キャシーの友人たちも同じような格好です」

「君が真似る必要はない」

「でも、学校になるべく溶け込む必要がありますので」

「普通に制服を着ている子もいるだろう! ともかくだめだ、それは絶対にダメだ!」


 言うなりウェイン中佐は学校の職員から丈の長いスカートを調達し、私に手渡した。


「今すぐ着替えろ」

「キャシーに怒られます」

「あいつのことは後で俺が説得する。それにこの学校の警備責任者は俺だ。軍兵と共に警備に当たるアンドロイドなら、俺の指示に従う義務がある」


 最もらしい理由をつけて、ウェイン中佐は命令する。


「警備と、私のスカートの丈に何か関係がありますか?」

「何か起きたとき、その格好で動いたら下着が見えるだろ」

「下着が見えるのはいけないことなのですか?」

「とてもいけないことだ」


 怖いくらい真剣な顔で、ウェイン中佐は断言した。

 そこまで言われるのだとしたら、確かに履き替えるべきなのかもしれない。


「わかりました」

「あとお腹も隠せ。シャツはちゃんとスカートに入れろ」


 仕方なく、了解した。


「あと……」

「まだ、何かありますか?」

「いや……その……三つ編みは似合っている」


 キャシーが編んでくれた三つ編みは私も気に入っていたので、ほどかずに済んでほっとする。


「では、三つ編みは継続します」

「ああ、それでいい」


 それから私は服を着替えた。

 キャシーには文句を言われたけれど、ウェイン中佐の命令だというと「ああ、あの人そういうキャラだったわ……」などと私には理解できない呟きをこぼし、そのままでいて良いと言ってくれた。

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