08:戦いが終わった日

第7宇宙歴124年/ 9月5日/ 晴れ時々虹



「あああああああああああああ、やっぱり素敵いいいいい!」


 朝起きると、キャシーのはしゃぐ声が聞こえた。

 キャシーが興奮するのはウェイン中佐がらみのことが多かったので、もしかしたら久々に彼が顔を出したのかもしれない。そう思って、私は慌てて声のする方に向かった。


 でもそこに彼はいなかった。

 キャシーが興奮していたのは、生中継にレイン中佐の姿が映っていたからだった。


 彼の話は難しくてよくわからなかったけど、とても凄い発明について発表しているらしい。


『機械型生命体の新たなテロ行為に対抗すべく、我々は生命体の【意思】を完全に消し去る方法を模索してきました。そして本日、その結果がようやく実ったことをご報告させて頂きます』


 このコロニーだけでなく、銀河中に流れる映像に知り合いが映っているのは不思議な気持ちだった。キャシーも同じ気持ちだったのか、録画しなきゃと何やら慌てている。


「でもホント、レイン中佐ってイケメンよね」

「ウェイン中佐のほうがイケメンです」

「いやでも、美形レベルでいったらレイン中佐でしょ」

「男らしさで言ったらウェイン中佐だと思います」


 そんな会話をしながら、私達はレイン中佐の放送を見た。


『今後、人類は二度と機械型生命体に怯える必要はなくなります。我々は長い戦いについに勝利したのです』


 レイン中佐がそう言うと、映像の向こうだけでなく家の外からも歓声が上がった。

 窓から外を見れば、通りに人々が飛び出して、泣いたり笑ったりしている。

 中には歌を歌ったり、踊ったりしている人もいる。


 それを見ていると、何だか心が温かくなった。

 ずっと眺めていたかったし、叶うならそれをウェイン中佐と一緒に見たかったなとぼんやり思った。


「ジル、今日はお祭りだって! 花火もいっぱい上がるって!」


 だから外に行こうと言うなり、キャシーは駆け出した。

 慌てて追いかけようとしたけれど、私はそこで足を止めてしまった。

 映像の中で、レイン中佐の顔が暗く陰ったのだ。


『――それでは、全ての犠牲者に哀悼の意を表します』


 途中の会話は聞き取れなかったけれど、嬉しいことと同じくらい悲しいことが起きたのかもしれない。

 顔を伏せたレイン中佐の目から涙がこぼれ、彼は苦しげにスピーチ原稿を握り締めている。

 慌ててハンカチを取り出したが、映像なので頬を拭うことは出来ない。


 だから私は、レイン中佐とウェイン中佐が仲直りをしていれば良いなと思った。

 そうしたらきっと、ウェイン中佐がレイン中佐を慰めてくれるだろう。

 涙を拭って、街中の人がそうしているように、二人もまた笑ったり踊ったりするといい。


 そんな映像が流れないかと期待したが、レイン中佐は最後に一礼して画面の外に消えてしまった。


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