早起きと遅起き2
翌日。エレナが眠っていることを確認すると、よし、と決意を固めた。
昨日、眠ったエレナに言葉をかけると、何らかの返答をしてくれることがわかった。
それならば、眠っている間ならば、エレナの知られざる本音を聞き出せるかもしれない。
起きている間であれば忖度するようなことも、素直に答えてくれるはずだ。
エレナの耳元に、そっと口を寄せた。
「エレナさんは、僕とのエッチで満足してくれてますか?」
むにゃむにゃと幸せそうに口が動く。
「だいまんぞくだよぉ……」
テルミットの中で花が咲いた。満足ではない。大満足。拙い技術ながら、ちゃんと満足させてあげることが出来ていたのだ。
どんな質問でもエレナは答えてくれるらしい。素晴らしい答えが聞けて、つい調子に乗ってしまう。
「どんなエッチが好きですか?」
「おなかのおくをこつこつされながら、いっぱいちゅーするのがすきぃ……」
「そ、そうなんですね……」
覚えておこう。心の中でメモを取る。
エレナとの充実した愛の営みを思い浮かべて、ふと一つの疑問が芽生えた。
「エレナさんは、僕のことをどう思っていますか?」
カッコいいと思ってくれてるだろうか。頼りになると思ってくれてるだろうか。
少なくとも悪いようには思われていないと思う。
ただ、素面のエレナに尋ねたところで、テルミットの望む答えをリップサービスしてくれるだけだろう。
眠っている今のエレナなら、紛れのない本心が聞き出せるに違いない。
知りたい。エレナの本当の想いを。
むにゃむにゃ、とエレナの口が動いた。
「あいしてるよぉ……」
エレナの答えは、テルミットの予想の斜め上をいっていた。望んでいた答えではなかったが、これはこれで、ものすごく嬉しい。
エレナにそっと呟く。
「……僕も愛してますよ」
「えへへぇ……」
普段の彼女からは考えられないほど、エレナの顔がだらしなく緩む。
「僕のこと、どれくらい愛してますか?」
「すっごく、あいしてるよぉ……」
緩みきった顔で、猫のように擦り寄る。頭を撫でると、くすぐったそうに笑みが浮かんだ。
かわいらしい。癒やされると共に、胸の奥が温かくなっていく。調子に乗って、さらに尋ねる。
「それじゃあ僕の、ど、どんなところを愛してますか?」
「ぜんぶぅ……」
「全部、ですか……」
嬉しいような、恥ずかしいような不思議な感覚。
もっと欲しい。聞かせて欲しい。
「ぐ、具体的には、どんなところですか?」
「かわいくて、やさしくて、がんばりやさんで、いつもいっしょうけんめいで、ボクのことをとてもだいじにしてくれて、カッコよくて、たよりになって……むぐっ」
それ以上は恥ずかしくなり、エレナの頭を抱き締める形で口を塞いだ。
前半はおおよそ男を褒めるような言葉ではないような気がしないでもないが、エレナがテルミットのことをよく見てくれているようで嬉しい。冒険者だった頃では考えられないことだ。
胸の奥から、温かな気持ちが溢れだす。そっとエレナの髪を撫でた。
「僕、エレナさんにはすごく感謝してるんですよ。エレナさんのおかげで、毎日がとても充実してますし、穏やかに過ごせているんです」
平穏。安寧。安らぎ。肯定。そのどれもが、エレナから与えられたものだ。
冒険者だった頃は、いつも何かに追い立てられるような焦燥感を感じていたが、今は違う。時間の流れに身を委ねる心地よさを知った。
「僕がそういう風に変われたんだとしたら、全部エレナさんのおかげなんですよ。自分が嫌で嫌でたまらなくて。でも、エレナさんがこんな僕でもいいって言ってくれて。
エレナさんがいなかったら、こんな風に穏やかに過ごせなかったと思いますから」
自分の鼓動が早くなっていってるのがわかる。言葉だけではない。嘘偽りのない想いなのだと伝えるためにも、エレナに自分の胸を押し付けた。
触れたところから、エレナの温度も伝わってくる。エレナの温度が自分の心に流れ込んでくるようだ。エレナを抱き締める腕に力が篭もる。
「優しくて、温かくて……僕は、そんなエレナさんのこと、だ、大好き、ですから……!」
かすれるような小さな声。やはり自分の想いを言葉にするというのは気恥ずかしい。だが、悪い気はしない。
(こんなこと、エレナさんが寝てる時しか言えないよな……)
エレナ眠っているのをいいことに欲張るテルミット。普段は言えないようなことも、今なら言えるような気がした。
「愛してますよ、エレナさん」
囁いてすぐに、腕の中から声が聞こえてきた。
「……今の、もう一度聞かせてくれないかい?」
「うわぁ! い、いつから起きてたんですか!」
「テルが感謝してるって言ってくれてた辺りから」
ということは、聞かれていたのか。全部。
眠っているのをいいことにエレナに対して繰り出された言葉の数々を。
「うう……恥ずかしいので忘れてください……」
女々しいことを言い出したテルミットに、エレナがニヤリと微笑んだ。
「イヤだね。一生忘れてあげないよ」
「エレナさん〜」
情けない声を出すテルミットを緋色の瞳が射抜いた。テルミットを貫く視線は、どこまでもまっすぐで、どこまでも真摯で、
「ボクもテルのこと愛してるよ」
どこまでも深くテルミットの胸に刺さった。
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