2-2 使い魔

「じゃあ、行ってきます」


「うん。気をつけて行くんだよ。知らない人や変な人にホイホイついていかないようにね」


 自分のことを棚に上げて忠告するエレナに、思わず苦笑する。


「僕を何歳だと思っているんですか。大丈夫ですよ」


「そうだったね。キミはもうすっかり、オトナの仲間入りをしたんだったね」


 エレナの視線が、テルミットの身体の一点を射抜く。その視線の意味するところに気付き、思わず赤面する。


「な、何見てるんですか! 言っておきますけど、僕はまだ綺麗な身体ですから! 何もやましいことはしていませんから!」


「おや、そうだったのかい。ボクは既にキミが子孫を残せる身体をしていることを言ったつもりだったのだけど。キミの言うところのやましいことっていうのは、何のことだい?」


 獲物を狙う猛獣のような視線でテルミットを一瞥。


 余計なことを口走ってしまったことに気付き、さらに赤面する。恥ずかしさを誤魔化すように、早口で捲し立てる。


「ぼ、僕もう行きますから! エレナさんこそ気をつけてくださいね! エレナさんみたいな綺麗な人が一人で山奥にいるなんて知られたら、何が起こるかわかりませんから!」


「そうだね。その時は忠実な騎士くんが助けに来てくれるように祈るとしようか。ボクのピンチには、ちゃんと駆けつけてくれるんだろう?」


「と、当然です!」


「頼りにしてるよ」


 テルミットが屋敷を出るのを見送ると、エレナは一人自室に戻った。


 彼はもう子供という年齢ではない。一人で町へ行くくらい、気持ちよく送ってやればいい。


 ただ、そうできないのは、どこか自分の中で彼を庇護しなければならないという意識を持ってしまっているせいだろう。


 もちろん彼にとっては大きなお世話かもしれないが、それでも心配なものは心配なのだ。


 自分のあずかり知らぬところで彼の身に危険が迫るくらいなら、過保護とそしりを受けることくらい、なんてことはない。


 使い魔にしていた小鳥を呼び寄せ、意識を集中させてる。


 吸血鬼の能力はいくつかある。最も有名なものは不老不死だが、最も重宝する能力は別にある。


 使い魔化。小動物や昆虫を使い魔として使役する能力だ。使い魔となった動物は、術者の手となり足となり、感覚を共有させれば目となり耳となる。


 日中、外を出歩けない吸血鬼にとっては、非常に役に立つ能力だ。


 もちろん、それはエレナにとっても例外ではなく、使い魔の小鳥を操って森の見回りをするのが日課となっている。


 今回は、それを利用してテルミットを尾行するのだ。


 意識を小鳥と同調させ、自室の窓から勢い良く飛び立った。


 テルミットが屋敷を出て間もない。すぐに追いつけるだろう。

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