秘密の花園 エレナside

 午後の昼下がり。花に囲まれた庭園で、テルミットと二人で紅茶を飲む。


 ゆったりとした、穏やかな時間。幸せな一時に水を差すように、テルミットが声を上げた。


「ん?」


 何か気になることでもあったのか、テルミットの視線が宙を彷徨う。


 やがて、視線はエレナの方へ向かうと、そのまま止まってしまった。


「あっ!」


「どうかしたのかい?」


「今、ハチが飛んできて、エレナさんのスカートの中に入ってしまって、その……」


 申し訳無さそうにテルミットが口にする。


 つまりは、エレナのスカートの中にハチが入り込んでしまったので、ハチを追い払いたいらしい。


 これは一大事だ。もし大事なところを刺されてしまった日には、激痛に苛まれ日常生活が困難になってしまう。


 もしもそうなったら、テルミットは自分に何をしてくれるだろう。甲斐甲斐しくお世話をしてくれるだろうか。


 それとも、刺されてすぐに毒を吸い出すべく、口をつけるのだろうか。エレナの秘部に。


 普段は臆病なところのあるテルミットだが、ここぞという時には驚くべき積極性を見せてくれる。エレナが大事なところを刺されたとしたら、きっとすぐに助けようとしてくれるだろう。


 強引にエレナのタイツを引き裂いて、白い素肌を白日の元にあらわにして、刺された箇所を探す。やがて、エレナの大事なところが刺されたのだとわかると、ショーツをずらしてその奥にある赤く腫れたところに口をつけて一心不乱に吸い出す様は傍目には性交渉の前段階である愛撫と大差ないわけで──


 ──そこまで考えて、正気に戻った。バカか、自分は。こんな時にこんな妄想をして。これでテルミットにスカートの中を見られた際に濡れていたら、まるで自分が期待していたみたいではないか。


 ヘンなことを考えたせいか顔が、いや全身が熱い。


 余計なことを考える前に、さっさと済ませてしまおう。


 エレナはスカート端をちょこんと摘む。軽く持ち上げただけで風通しが良くなり、湿気と熱が逃げていく。

 冷静にこの状況を考えてみると、どうも恥ずかしい。裸体はさんざん見せたはずなのに、スカートの中を見せるのは、どうしてこうも恥ずかしいのか。


 いつまでもテルミットを待たせるわけにはいかない。スカートの端をゆっくりと持ち上げ、大胆にその内側をさらけ出した。


 テルミットの目が、エレナのスカートの中に釘付けになる。


(うう……)


 テルミットに見られていると、性的に興奮させているのだと思っただけで、身体が準備を始めてしまう。


 つくづく自分の身体がテルミット専用にされてしまったのだと思い知らされる。


 もじもじと太ももを擦りあわせた。


「テル……。は、恥ずかしいから、早めに済ませてね……?」


「…………」


 よほどエレナのスカートの中に心を奪われているのか、エレナの言葉は耳に届いてはいないようだ。


 やがて、吸い込まれるように顔が接近していき、テルミットの吐息がエレナの秘部を撫でた。


「ぁ……」


 ぞくり、と下腹部に電流が流れた。危ない。危うく達してしまうところだった。


「ご、ごめん。息があたると、その、くすぐったくて……」


「す、すみません」


 テルミットが申し訳なさそうに頭を下げると、再び視線をスカートの中に戻した。


「どこへ行ったんだろう……」


 熱を帯びた視線が、エレナの秘部へ向けられる。布越しだというのに、直接まじまじと見られているような気がしてしまう。


(うう…………)


 恥ずかしい。そのはずなのに、身体の芯は熱を帯びてお腹の奥がきゅんと疼いてしまう。


 期待が液体となってはいないだろうか。液体が溢れてはいないだろうか。もし既に溢れてしまっていたら。それをテルミットに見られてしまったとしたら。


 羞恥が興奮に変換されていく感覚。エレナの理性が溶け出しそうになったところで、テルミットの息が再びエレナの秘部を撫でた。


「ひゃん……!」


 あまりの刺激に、捲り上げていたはずのスカートを押しつけてしまう。


 スカートの裏地に押され、タイツ越しにエレナの秘部へ顔を押し付けられた。テルミットの頭を、完全にスカートの中へと導いてしまった。


 力いっぱい押しつけたせいか、スカートの布越しにテルミットの頭がくっきりと浮かんでしまう。まるで自分のお腹の奥に新たな生命を宿してしまったような気分だ。


(いつか、テルと子供が出来たら……)


 そんな想像をしてしまい、慌てて頭を振る。テルミットはエレナを危険から救おうと必死になってくれてたのに、自分は何を考えてあるのだ。


 テルミットを解放するべく、再びスカートを持ち上げた。


「ご、ごめん。くすぐったくて……」


「いえ、こちらこそ、すみません」


 頭を下げると、再びスカートの中に集中する。今度はすぐに見つけられたのか、テルミットが手を伸ばした。


 エレナのタイツから引き剥がすと、明後日の方へ投げた。ハチが戻ってくる気配はない。テルミットが、ふぅ、と息をついた。


「もう大丈夫ですよ」


「ケガはないかい? 刺されたりしなかったかい?」


「平気ですよ。ほら!」


 テルミットが左手を広げて見せると、エレナが頬を膨らませた。


「騙されないよ。ハチを摘んでいたのは、逆の手だったはずだよ」


 エレナがテルミットの右手を掴むと、まじまじと観察した。


「ほら、やっぱり刺されているじゃないか」


「す、すみません。エレナさんに心配をかけたくなくて……」


 テルミットの優しさが胸に染み渡り、温かな感情が胸に広がった。エレナの中で愛おしさがこみ上げてくる。


「心配くらいさせておくれよ。テルのことが大切なんだから」


「エレナさん……」


 感極まった様子で、テルミットの頬が緩んだ。


「待ってて。今、毒を抜くから」


 その場に膝をつくと、テルミットの刺された手を大事そうに両手で抱え、人差し指を口に含んだ。


 少し骨張った指。その大きさを。形を。柔らかさを確かめるように舌を這わせる。やがて、ハチに刺された箇所を見つけると、ちゅうちゅうと吸い始めた。


 好きな人に跪き、奉仕をするように身体の一部を口に含ませている。身も心も捧げているような感覚。行為そのものは純粋な医療行為のはずなのに、妙に背徳感を覚えてしまう。

 屋外でやっているからか。はたまた体勢がそうさせているのか。


 一通り毒を吸うと、息を整えるべく、ちゅぽん、と口を離した。慈愛の篭った手が、そっとテルミットの手を撫でる。


「腫れてる……。痛くないかい?」


「だ、大丈夫です。それより……」


 赤く腫れた指先が、エレナの唾液でぬらぬら輝く。


(まだ腫れが収まってなさそうだね……)


 再び口の中へ導くと、舌を絡ませる。先程よりも濃厚に。濃密に。


 ちゅぱ。ちゅぱ。


 先程から熱の篭った視線を感じる。エレナがテルミットの指を咥えたまま、上目遣いに首を傾げた。


 なぜ先程から、テルミットがとろけた様子でこちらを見つめてくるのか。自分はただ、毒を吸い出すべく、その場に膝をついてテルミットの指を口に含んで医療行為をしているだけだというのに。


 と、そこまで考えて、はたと気づいてしまった。


 これは、男性の象徴に奉仕を捧げる際の体勢と酷似しているのではないか。


 その可能性に至ると、これまでのすべてが点となって繋がった。なぜ先程からテルミットが熱の篭った視線を送ってくるのか。なぜ自分がただの医療行為に興奮を覚えてしまったのか。


 ただの医療行為をしているはずなのに、身体が熱くなってしまう。


 指をそれに見立てて舌を這わせる。しばらくそうしていると、腫れが治まってきているのに気がついた。


 エレナが名残惜しげに口を離す。指先から薄桃色の唇に糸が引いた。


「うん、腫れも大分引いてきたね。あとは冷やしておけば、良くなるよ」


「……ありがとうございます」


 テルミットがホッと息をついたのがわかった。テルミットも興奮してくれているのだろうか。


 エレナがテルミットの下半身に視線を移し、


「それじゃあ、今度はこちらの腫れも鎮めようか」


 テルミットのズボンの中で膨らむそれをオモチャのように指で弾くと、エレナがニヤリと微笑んだ。

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