三鶴城さんの挑戦状2

 あれから数日がたった。三鶴城はあちらからは何の接触をしてこない。そもそもクラスも遠く、関わることがないために、会う為にはこちらから会いに行く必要があるのだ。


 こんな風に過ごしてるだけでは、期限はどんどんと迫っている。何もしなければ、きっとあいつは平気で画像を晒すだろう。


 何てったって悪魔だからなあいつは。三鶴城こそぼっちの皮を被った、悪魔なのだ。


 大人しくて人畜無害ですみたいな顔をしながらも、きっと常に獲物の首元を狙っている。三鶴城の前で易々と暮らすことなんて、どうぞ狩ってくださいと言っている様なものだろう。


 俺は今日もいつも通り五人でお弁当を食べる。最近、李梨奈の黒須への距離が近く見えるのは気のせいだろうか。入学当初よりも二人の距離が近い様に見える。


 まぁ、仲良くなってきて距離が縮まってきたのだろう。みんな高校生活にも慣れてくる頃だ。


 先生もこの時期はたるんでくる時期と言っていた。何なら入学した瞬間から大学受験は始まっている、なんて言う先生もいるくらいだ。正直クラスに馴染むことでいっぱいで、みんなそれどころではないだろうに。


「池尾、最近部活どうよ? バスケ部の練習って厳しいってみんな言ってるよな」


「慣れたらそうでもないかな。先輩もいい人たちで楽しいよ」


 俺は池尾と黒須の何気ない会話を聞いているが、こんな会話だけでも陽キャラみたいで嬉しくなる。


「うちもなんか部活入ろうかなぁ。暗那はなんもやらないの?」


「あたしはいいかな‥‥。李梨奈は運動神経もいいし勿体ないよ」


「そうだよね! 女テニでも入ろっかな!」


 李梨奈はエアーで素振りをしている。李梨奈の女子テニス部姿は何だか容易に想像ができる。


「楽君は何もやらないの?」


 暗那は黙々と弁当を食べている俺を、会話に入れようと気を遣ってくれたのか、話を俺に振ってくる。


「俺は今のところいいかな。バイトでもやろうと思ってるし」


 部活なんて入ってみろ。休日まで部活動で潰れ、挙句には疲れてアニメ見ることもなく溜まっていく。買ったゲームも溜まっていき、しかし新作には手を出していく。結果積みゲーへと変わる。そんな高校生活俺は嫌だっ!!


 陽キャラに変わったが、俺は心までは染まらないもんっ!!


「うちもバイトしようか悩んでるんだよね。なんか良いのないかなぁ?」


 李梨奈は甘える様な声で言った。李梨奈は言葉の語尾が撫で声になる事がよくある。見た所それは男子の前だけで、女子といるときは違う気がする。あざといし、きっとワザとなのだろうが俺は可愛いと思ってしまう。


「李梨奈はマックとかいんじゃね? 似合ってるっしょ!」


「黒須がそう言うならそうしようかなぁ?」


 こうして今日もたわいない一日が過ぎていく。しかし俺は三鶴城に言われた期限が待っている。どうにかしなければと思いつつ、今まで何もしていないのだ。



 放課後を迎え、俺は帰宅の準備をする。黒須と池尾はいつもの様に部活へと向かっていく。教室の後ろの方で李梨奈と暗那の話し声が聞こえてくる。


「暗那、うち今日は元中の友達と約束があるからごめんね!」


「大丈夫だよ。楽しんできてね」


 李梨奈は軽い足取りで教室を出ていく。


 俺はいつも、大体の生徒がいなくなってから教室を後にする様にしている。変なタイミングで帰ると、下駄箱あたりでばったり鉢合わせる可能性があるからだ。


 暗那も同じことを考えているのか、中々教室から出ていこうとしない。そうして教室の生徒達は減っていき、気がつくと俺と暗那の二人だけになっていた。


「‥‥楽君は帰らないの?」


「‥‥今帰る所」


 とてもきまづい。五人でいると何ともないのだが、こうして二人きりになると、とてもきまづい。黒須はそんなことはないが、李梨奈と暗那、そして池尾とは実際五人でいてもそんなに俺は話す事はないのだ。


 どっちが先に帰るかのチキンレースみたいになってきた所で、痺れを切らした俺は教室を出る事にした。しかし何も言わずに帰るのは違う様な気がして、一度暗那の方を振り向く。


「‥‥じゃあまた明日」


 そう言って教室を出たのだが、何故か暗那も同じタイミングで教室を出てくる。俺の数メートル後ろを同じ速度で歩いていた。


 ‥‥えぇ、何この状況。この距離感。めっちゃ気まづいんですけど。この距離を別々に歩く方が不自然だろ‥‥。


 しかし、かと言って俺には女子と一緒に帰った経験などない。こう言う時にどうしたら良いのか全くわからないのだ。


 池尾や黒須なら、一緒に帰るか。なんて声をかけるのだろうが、俺にはそれは厳しすぎる。



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