エリートぼっちの三鶴城さんは、陽キャラと青空が嫌い

白石 佐草

始まりの中学時代

 キラキラとした高校生活。そのキラキラの解釈は人によって様々だろう。


 楽しい友達や仲間と過ごす事。部活に情熱を注ぎ、汗を流しながら同じ目標へと向かって頑張る事。好きな人と付き合ったり、曖昧模糊の状態を楽しむ事。バイトに精を出しながら充実感を得る事。


 多種多様な楽しみ方が存在するだろう。


 よく、みんな違ってみんな良いなんて言葉がある。とてもいい響きなんじゃないかと思う。


 しかし、果たして本当にそうなのだろうか?


 結局は人は人と、どうしても自分を比べたがる。人よりも優れている事を、人は当然ながら願望している。


 そんな事はない。俺は俺だ。なんて雰囲気を醸し出してる奴に限って、内心ではこいつらとは違うなんて孤高の存在を気取る。


 しかしそれは、そいつの一種の防衛本能で、その本人以外から見たら滑稽なものである。


「あいつぼっちじゃん!」とか、「友達いないのウケるww」なんて影では言われ、陽キャラ達の笑いのネタにされているだろう。


 人は自分よりも下の人間を見つけると落ち着く。反対に上の人間には嫉妬をし、妬みの対象になってしまう。


 それを素直に羨ましいと言えるような人間は教室の端っこで、狸寝入りなんてしないのだ。


 結局何が言いたいのかというと、人生を楽しむためには人よりも上に立たなければいけないと言うことだ。


 見下されたくないのであれば見下せばいい。青春せいしゅんらくは中学を卒業する時、その結論にたどり着いた。


 彼は中学時代、教室の隅っこで本を読んでいるような学生だった。人とはなるべく関わらず、目立たないようにする。そんな事ばかり考えながら生きていた。


 それもあってか、席替えには全力の運を注ぎ込んでいた。


 席替えとは学生生活のほとんどを過ごす事になる陣形。すなわち生活そのものと言っても過言ではない。


 ここで陽キャラの近くにでも来てしまった日には、「うわっ、青春いんじゃん。マジパネェ」とか、「もうこの席最悪ぅ」なんて言われることになる。


 ーーそれも目の前で。


 しかし、そんなのはまだ序の口。一番最悪なのは一定数居る、席替えに命を注いでるような奴らである。


 彼らは席替えに命を注ぐあまり、自分のことしか考えていないのだ。あれは一種の戦争であり、エゴとエゴのぶつかり合い。己の利益だけを賭けた生存競争と言っても過言ではない。それは当然教室内の陰キャラ達を巻き込むのである。


 ーーここで一つ、俺自身が体験したおぞましい体験を話すとしよう。あの出来事は思い出すだけで身震いがする程だ‥‥。


 あれはいつも通り、席替えが開戦する時のことだった。俺は祈りながらクジを引いた。そこまでは良かった。壁際のベストな位置を引き当てる己自身の運を祝福していたものだ。


 問題はこの後起きたのだ。クラス内の中心的な女子生徒が不運にも俺の横の席を引いてしまったのだ。その周りも大人しい生徒達で固まっていて、俺としては平和で嬉しい結果だったが、どうやらその女子生徒は気に食わなかったらしい。


 嫌だ嫌だと駄々をこね始め、しまいには俺の隣が嫌だと泣き出したのだ。あれは間違いなく号泣というやつだった。


 当然こうなると、他の陽キャラ達が黙ってはいない。自分たちは良い席になり満足しているくせに、ここぞとばかりにその女子生徒の為に騒ぎ立てる。


 そうして何故か俺が悪いと言った風潮が流れ始める。何もしていないのに、「あーあ、青春やっちまったよ」みたいな空気が教室内を包み、形見が狭くなる。あれはなんて言う地獄なんでしょうか?


 そんな思い出が俺の中では、中学の思い出の二割を占めている。


 残りの八割は密かに好きだった女子の消しゴムを拾った時、引きつった笑顔でお礼を言われ、その消しゴムを濡れたティッシュで拭かれた事と、打ち上げの類に一度も声すらかけられなかった事。


 朝の毎日の点呼の時に、先生に名前を呼ばれなかったことが34回あることだ。これは呼ばれなかったたびにメモを取っていたので、間違いはない。


 その他にも修学旅行の班決めも最後まで俺が残り、押しつけあいにされたことや、クラスの女子のリコーダーがなくなった時に、真っ先に疑われたことが記憶に残っている。


 正直思い出すとまだまだあるが、これ以上は自分自身のHPが持ちそうにないのでここまでにしておこう。


 つまり、結局のところ何が言いたいのかと言うと、陽キャラ羨ましい。くたばれと言うところである。


 きっとあいつらの中学の思い出はキラキラに輝いていて、輝かしい青春の一ページとして記憶に刻まれているに違いない。


 いつか過去を思い出した時にも、枕に顔を埋めて叫んだり、夜な夜なダークネスな気分に苛まれたりなんてしないのだろう。久しぶりに卒業アルバムを開いた時に、白紙のページが出てくるなんて事も絶対に無いはずだ。


 そんな中学生活を終え、俺は決意した。高校生活は絶対に楽しく過ごす。そのためには‥‥高校デビューするしかない!! と。


 幸運にも父親の仕事の転勤を機に、引越しをすることになり、知り合いは誰もいない高校を選ぶことになった。ここでなら俺は中学時代の黒歴史がバレる事はまず無いだろう。


 待ってろ俺の陽キャラ生活! もう暗い学生生活とはおさらばし、明るい高校生活を送ってやるっ!!


 それから俺はそれまでのメガネをやめて、コンタクトにした。貧弱だった体も筋肉をつけ、話し方もなよなよした自信のなさそうな話し方をやめた。


 どうやら自信が言動や容姿に反映されると言うのは本当らしい。毎朝の鏡の前での自賛のルーティンを欠かす事はない。


「俺はかっこいい」そう唱える事で、自信はより確かなものへと変わっていった。



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