陽キャラと陰キャラ
そうして高校生活が幕をあげた。当初の予定通り、おそらくはクラスのカーストで上位に属することに成功したと言っても過言ではない。爽やかバスケ部の
所々若者言葉というやつが何を言っているか分からない時はあるが、持つべき地位を手に入れた俺にはそんな事はノーダメージだった。
これが陽キャラ!! もう最高っ!!
「黒須ぅー。うち、宿題忘れちゃったんだけどうつさせてよー」
「ほら。間違ってても俺のせいにするなよー?」
黒須は英語の宿題のノートを、
陰キャラで友達の居なかった中学時代は、絶対に宿題を忘れてはいけなかった。宿題を忘れるイコール、死を表していたと言っても過言ではない。クラスでは目立ち、先生にも怒られる。つまりは最悪のダブルパンチだった訳だ。
それがどうだ。今では忘れれば休み時間に見せてもらえる。
何ですかこのヌルゲーは? やはり陽キャラというものは人生を得している。
「間違ってたら怒るかんねー!」
李梨奈がそう言うとみんなが笑った。なので俺もとりあえず笑っている。
未だにこう言う笑いのタイミングが難しい。陽キャラになってみて思ったが、とにかく陽キャラは笑っている。何かとすぐに笑うのだ。もちろん面白くない事も笑っている。
間違いなく某お笑い番組に出たら、その顔は一瞬でCLEARという表記で消されるに違いない。
「李梨奈早くうつしちゃった方がいいよ!」
俺は高校に入ってからこの四人と一緒にいる。クラスの中を見回しても、この俺たちのグループがカースト、すなわち食物連鎖のトップにいると言っても過言ではない。
一応、色々と例外は存在する。まずは普通に可愛い子や、運動部に入っている奴なんかは池尾や黒須たちとも普通に話しているし、その他にも面白いやつや、普段からずっと彼女といる不思議な奴なんか、カーストでは高い位置に存在しているだろう。
そういう奴は陽キャラとも話し、陰キャラたちとも楽しそうにしている。きっと奴らは世渡り上手なのだろう。俺はきっとあの生き方を真似することはできないが、あの立ち回りが一番のベストだと俺は密かに思っていたりする。
カースト、カーストとしつこいようだが、それくらいに学生生活とは権力によって牛耳られているのだ。いわば社会の縮図と言ってもいいだろう。
今の時代、便利になった反面にコミュニケーションが減りつつあると、胡散臭い専門家がこの前にテレビで言っていた。
勉強ができても、協調性のない奴はダメだと聞いた事もある。それくらいに人との関わりは大切な事らしい。
こうして教室を眺めてみると、意外にも陰キャラは陰キャラ同士で楽しそうにしている。
俺が中学生の時は誰とも関わっていなかったと言うのに‥‥。あれ? もしかしたら俺だけがぼっちでみんな意外と楽しくやっていたのかな? なんて考えたが、虚しくなってくるので忘れることにしよう。
しかし俺自身、中学生時代は黒歴史だと自負しているし、誰にも気づかれてはいけないと思ってはいるが、別に後悔はしていない。
あの地獄の日々があったから、今こうして頑張れている。もしタイムマシンがあったら中学の頃の自分に、「がんばれ。今を耐えれば何とかなるぞ!」と言ってやりたいものだ。
そして意外だったのが黒須や池尾との会話の中で、意外にも人を馬鹿にしていないと言うことだ。てっきり俺は陽キャラは悪口を言うことで、欲を満たすようなモンスター揃いだと思っていたと言うのに。
そうしながら順調に高校生活を過ごすこと二ヶ月が過ぎた。何となく日々は過ぎていったが、嫌な事は何一つなかった。
それと時間が経つのも早く感じる気がした。昔の俺は毎日が長く学校での時間は受刑者のような気分だったが、今は楽しさすら感じている。
そんないつものように一日を終え、黒須と池尾は部活へと向かっていく。俺は何の部活にも入っていないので、いつも家に直帰している。
学校でこそ陽キャラの仲間入りをしたが、プライベートでは正直アニメやゲーム三昧である。
録画しているアニメの消化は勿論のこと、毎クールでの嫁探しも欠かす事はない。部屋にも、萌え萌えなフィギュア達が日々の疲れを癒してくれている。
高校入学を機に本当はこう言うのもやめるか悩んだが、やはりやめることはできなかった。
うんうん。アニメは何も悪くないんだもんっ!!
「おい、青春。このプリントを職員質まで運ぶのを手伝ってくれ」
担任の先生は何故か俺に声をかけてくる。
「‥‥俺ですか?」
ここで黒須や池尾だったら、「えー、だるいっす」とか言うのだろうが、俺の心はまだそこまで陽キャラには馴れていない。すなわち、断ることはできないと言うことだ。
「そうだ。ほら頼むぞ」
俺は言われた通りにプリントを抱える。これが意外と重い。
教室を出る時にクラスの女子達が、「またね」と俺に言ってくる。俺はそれに、「また明日」と返す。昔だったら絶対にありえないことで、こんなことで舞い上がってしまう。
いつものグループにいる、李梨奈と暗那と話すのでさえも未だに緊張しているくらいだ。
根がインキャに変わりないためか、女子と話すことには全く慣れる気がしない。そこだけは今後の課題と言わざるを得ない。と言うかそもそも、長年ぼっちだった俺がそう簡単に異性の子と仲良く話すなど無理に決まっているのだ。
それに李梨奈と暗那と下の名前で呼んでいるが、それにさえも抵抗を感じるくらいだ。みんながそう呼び合っている手前、城ヶ崎さんだとか獅子堂さんなどと呼べる筈もない。
より良い高校生活を送るのには、人に合わせることは必須に違いない。
職員室にプリントを運び終わり、廊下に出ようとした時に一人の女子生徒と扉の前で鉢合わせてしまった。
「‥‥どいてもらえる?」
「あ、ごめんなさい」
俺は扉の前を譲り、彼女は職員室へと入って行く。ショートヘアーだが、キメの細かい綺麗な髪の毛を靡かせている。
そんな彼女に俺は、不覚にも思わず数秒見惚れてしまった。大人しそうな外見だが、不思議と自信に満ち溢れているように見える。
まだ高校生活が始まって少しのせいか、顔はみたことある気がするが名前までは覚えていない。ただ、彼女からは何か自分に近いものを感じた。
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