カースト争い16
俺は咳払いを二回する。それを合図にしていた。まさかこんな風な形になるとは思っていなかったが‥‥。
「‥‥全く。どれだけ待たせるのよ」
廊下から三鶴城が教室に入ってくる。その手にはスマホを握っており、ずっと動画を回してもらっていた。
「三鶴城‥‥。どうしているのよ‥‥!」
練馬は三鶴城の姿を見て驚いたような声を出した。そして三鶴城のもつスマホに気づいたのか、俺を睨んだ。
「初めは下駄箱にいてもらって、そして練馬が来たあとは廊下に待機して貰ってたんだよ」
「この女が脱ぎ始めた時は、私は何を見せられるのかと思ったわ」
そう。何を隠そう、廊下に三鶴城がいると俺は知っていた。
確かに元陰キャラというのもあるが、三鶴城がいた為に美人局を断れたと言っても過言ではない。色んな意味で三鶴城がいてくれて良かった。うん、本当に良かった。
‥‥ただ、少し惜しいことをした。
「なんなのかな!? 何? 二人はやっぱり付き合ってるのかな?」
「どうなの青春君? 私たちは付き合ってるのかしら?」
「いや、三鶴城お前顔笑ってんぞ‥‥」
この場に三鶴城がいてくれているだけでとても心強い。初めは暗那に頼もうと思ったが、同じクラスだと問題も多い。
もし失敗した時に俺と共に酷いことに巻き込まれる可能性を考えた。本当だったら三鶴城でさえも俺は躊躇ったのだが、彼女はやってくれると言った。
事情もあまり知らないのに、三鶴城は快く引き受けてくれたのだ。
「で、あなたは練馬新奈と言ったかしら? その青春君があなたを食べちゃおうとしてる画像、消して貰ってもいいかしら?」
三鶴城は手に持った動画を再生する。そこからは練馬の自分が犯人だと認めた声が聞こえてくる。
それにしても言い方‥‥。どっちかって言うと俺が食べられそうだったんですけど‥‥。
「あーあ。まんまとハメられたってことだね」
練馬は不満そうに、俺が練馬に被さっている画像を消去した。そして俺にスマホを投げて渡してくる。画像フォルダを見ると確かに消えていた。
‥‥勿体ないとこっそり思うのはいいよね? 男だったら誰でも惜しむものだもんね!
「そう、いい子ね。で、どうするの青春君? この女の事は任せるけれど」
俺は時間を確認する。思ったよりも時間が掛かったせいで、もうすぐ誰かが登校して来てもおかしくは無い。
「‥‥とりあえず、練馬。お前はもう何も大泉にはするな。今後あいつには関わるな。李梨奈と暗那にもだ」
「はいはい。分かったよ。んで何? 今度は犯人として私を晒しあげる気?」
「そこなんだが、どうするか‥‥」
俺は別に犯人を糾弾したかった訳では無い。ただ大泉を孤立から救い、李梨奈や暗那への嫌がらせを辞めさせたかっただけ。
練馬を晒しても今度は練馬が孤立するのは目に見えてる。そんなことをしたい訳じゃ無い。
「つーか、なんで大泉だったんだよ?」
大体の予想は俺の中ではついているが、一応聞いておこう。
練馬は大泉の席に座り、足を組んだ。その表情は全く反省というものを感じなかった。
「最近、一香と沙奈が私の事避けてる気がして、それで沙奈がきっと一香に何か言ったんだと思った。だから私はやり返しただけ。初めは一香の為に城ヶ崎と獅子堂に嫌がらせしたんだけど、それじゃあ一香が疑われる。なら沙奈に押し付ければいいって思ったの」
ニコリと笑った。態度や表情は堂々としたものだ。しかしやっている事は陰湿極まりない。
「‥‥あの朝の花瓶や紙もお前が?」
「あれ大変だったんだよ? わざわざ利き手じゃ無い方の手で書いたんだもん」
三鶴城は練馬と俺の話を、教室の端で黙って聞いている。今、彼女が何を考えていて、何を思っているのか表情だけでは分からない。
ーーその時、クラスの大人しい女子生徒が教室に入って来た。俺達三人を見て、驚いた様子だったがきまづそうに席についた。時間オーバーか。まぁ、仕方がない。
「私は自分の教室に戻るわ」
三鶴城はそのまま教室を出て行った。終始あいつはいつも通りだったな‥‥。
「練馬が何もしないなら、俺はあの動画をどうもしないから」
俺は練馬に小声でそう言い自分の席に着く。さっきの生徒以外にも、何人か早い生徒が登校して来ている。
「三鶴城、姫ね‥‥」
練馬もそう呟き、自分の席に着いた。そして登校してきた赤羽といつも通り、楽しそうに話し始めた。
そして李梨奈と暗那がやってくる。暗那は鞄を持ったまま俺のところにやって来た。そして周りを見て俺に囁いた。
「‥‥あの画像、役に立ったの?」
「あぁ。助かったよ。ありがとな」
暗那の言う画像とは、大泉のロッカーに制服を仕舞っている画像だ。
練馬は騙されてくれたが、あれは練馬のことを盗撮した写真では無い。昨日の放課後に暗那に協力して撮った偽の写真だ。後ろ姿だけしか写真には写っていないが、女子の後ろ姿は似ている。
練馬からしたら覚えがあった。ならばすぐに自分が撮られていたと思うものだ。結果、それで言質を取れたんだしな。
暗那には詳しい事は何一つ話していない。ただ写真を撮るのに協力して貰っただけだ。暗那もそれ以上何も聞いてこなかった。暗那のことだ。気を遣って聞かないようにしてくれていたのかもしれない。
「‥‥そうだ。李梨奈と暗那に話があるんだけど」
「‥‥話?」
「うん。ちょっと今廊下に来て欲しい」
俺はそう言って廊下に出る。その途中、練馬と目があった。
「‥‥なに? 朝からどうしたん?」
李梨奈を納得させるのが一番難しい。きっと暗那は大丈夫だと思っている。だから俺は李梨奈だけを納得させればいいのだ。
「‥‥あのさ、上履きと制服を隠したのは‥‥大泉じゃないんだ」
「‥‥じゃあ誰?」
暗那は何も言わずに交互に俺と李梨奈の顔を見ている。
「‥‥それは言えないけど、信じてくれないか? ‥‥大泉も罪を被せられた被害者なんだ」
自分が滅茶苦茶なことを言っているのは重々承知している。李梨奈からしたら大泉が犯人でしかない。それなのに違うから信じてくれと俺は無理を言っている。李梨奈からしたら意味が全く分からないだろう。
李梨奈はため息をついて、俺の肩を押した。
「分かった。いいよ、楽がそう言うなら信じるから」
「‥‥そうだよな。って、え!?」
「だから信じるって言ったっしょ。うちもなんかおかしいと思ってたし」
李梨奈は壁に寄りかかり、教室の中にいる赤羽達の方を睨んだ。
「あたしも大丈夫。楽君の言う事、信じるよ」
暗那は俺と李梨奈を見てニコリと笑みを浮かべた。
「‥‥まじか。本当助かる。もう物を隠されたりはされないと思う」
「だろうね。さっき下で三鶴城にも楽と同じ事言われた。青春君を信じてあげてって。何あんたら、やっぱり付き合ってるっしょ?」
‥‥そうか。三鶴城はあの後こんなことまでしてくれたのか‥‥。本当助けられてばかりだ。
「だからそんなんじゃないって。後一つだけ‥‥大泉のことも気に掛けてくれないか‥‥?」
俺だけ虫のいいことばかり言っている。それでも李梨奈達が大泉と仲良くなってくれれば、きっとクラスメイト達の大泉を見る目が変わる。
隠した張本人が仲良くしているのだ。きっと訳が分からなくなり、こんな噂みたいのもきっと治ってくれるかもしれない。
「まぁ、あの三鶴城がデレデレしてるのとか想像できないし。大泉のはいいけど‥‥ただ、うちからも一つ条件があるんだけど‥‥」
李梨奈は少し恥ずかしそうに、俯きながら言った。俺はその先を聞く為に、李梨奈に視線で先を促す。
「‥‥今日の放課後、黒須と池尾誘って遊びにいこう」
どんなことを言うのかと思った。そうだ、李梨奈にとってはきっと大切な居場所だったのだ。もちろん俺にとってもそうだ。
最近はみんな一緒にいる事は無かったが、きっと前みたいに戻りたかったのだろう。
「分かった。そうしよう」
これでまた前みたいに戻れたらいいなと俺は思う。黒須だって別に嫌いで李梨奈を避けていた訳じゃない。またきっかけを作れば前みたいに戻れる筈だ。
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