三鶴城さんの挑戦状4
‥‥やばい。陽キャラ最高すぎだろ。何だよこの青春イベントっ!! もう、ドキドキしたよぉ!!
「‥‥気持ち悪い顔ね。警察を呼ぼうかしら」
有頂天気分の俺を突然現実に引き戻すほどの、冷たい声に俺は振り向く。するとそこには予想通りの人物が立っていた。
いつも通り手を組み、俺の方を呆れた様な表情で見ている。
「‥‥お前はどこから湧いてきたんだ三鶴城」
さっき通り過ぎていく姿を見たのに、こうして背後にいるとは‥‥。こいつは忍者かなんかなのか‥‥。
「アホ面を浮かべながら女の子と歩いてる人が見えたから、誰だと思ったら青春君だったとはね。高校生活がかかっていると言うのに、随分と余裕そうね」
「俺の高校生活をぶっ壊そうとしてるのは、お前じゃねぇか!」
「人聞きが悪いわね。私は身の丈にあった立ち位置に、あなたを戻してあげようとしているのよ。つまり、青春君の為を思っているのよ」
よくもまぁこいつは次から次へと‥‥。この姿を他の生徒達に見せてやりたいよ。
「なんか用か? というか、わざわざそっちから来るなんて、本当は俺に気でもあるんじゃないのか?」
嫌味には嫌味で返す。これが陰キャラの常だ。陰キャラは怒るとよく口が回る。好きな分野においても同様だが、俺も中学の時はそうだったから間違いない。 ※個人差があります。
「笑わせないで頂戴。陽キャラになった途端、ホイホイと女の子の手を握る様な男なんか興味はないわ」
「お、お前、見てたのかよ!!」
三鶴城は鼻で笑った。‥‥こいつはもしかして俺たちに気付いた上で、わざとあんな風に前を通ったのかも知れない。
「元陰キャラのあなたがどれ程のものか、気になったのよ。まぁ、童貞丸出しだったわね」
こいつは‥‥。絶対俺をいじめて楽しんでる。ドSぼっち性悪猫被り女め‥‥。自分だって俺に押し倒された時は、震えてたくせに‥‥。
「そういうお前は彼氏できたことあんのか? まぁ出来た事ないだろうなぁ、その性格じゃあ」
「あなたの前だけに決まっているじゃない。相手を見て相応の対応をしているの。あなたには通常の対応をするのは勿体無いと思うの。だって貴方は童貞で、キモ男じゃない。それに彼氏なんて作ろうと思えば作れるの。ただ、つまらない男は願い下げよ。だってそうでしょう。大体男なんて下半身でしか女を見てないのだもの。あなただって毎夜、猿みたいに自分の性欲を解消しているのでしょうし」
絶対俺の言葉が逆鱗に触れたよねこれ‥‥? ‥‥超絶早口で罵倒されてるよね俺。
前から思ってたが、こいつが怒っているの分かりやすすぎだろ‥‥。悪口を言われるのは中学の頃で慣れてるからいいんだけどね‥‥。
「お、俺が悪かった。三鶴城は可愛いから彼氏なんて作ろうと思えば作れるもんな」
「急にどうしたの気持ち悪い。それはその通りなのだけど、そうやって優しいこと言って私の気を惹こうったってそうはいかないわよ。あなたなんて初デートでラーメン屋に連れていきそうだし、そのニンニク臭い口でキスをせがんできそうだわ。女の子の気持ちも考えないで、自分が満足するだけのオナニーデートしか出来ない。だからあなたは、いつまでも自分の性欲は、自分で解消してればいいのよ」
流石にここまで罵倒されると、流石に来るものがあるな‥‥。つーか、こいつ平気で下ネタ言うな‥‥。
「と、とにかく落ち着け」
「何? 別に落ち着いているのだけど」
三鶴城はため息をつき手を組んだ。こいつは怒るとどうやら罵倒のマシンガンを放つらしい。他のやつには言わないのかも知れないが、俺でなかったら数日は寝込んでいるかも知れない。
「落ち着いてるならいいんだけど‥‥。ていうか、何か用があったからわざわざ声をかけて来たんじゃないのか?」
「えぇ、そうね。青春君、あなた自分の置かれた立場が全くわかってないみたいね。私の言った事理解してなかったのかしら?」
「認めさせるって、どうすればいいのか分からないんだよ‥‥」
俺はため息をついた。ただ三鶴城と話すには、クラスまで行かなくてはならないものが、こうして目の前にいるのはラッキーなのかも知れない。
「そんなの陽キャラの青春君なら余裕でしょう?」
三鶴城は挑発する様に笑った。バックに控えている夕日も相まってか、まるで赤い悪魔が立っている様だ。
しかし、俺は三鶴城に挑発されるとどうも乗ってしまう。あからさま過ぎるのだが、きっと受け流しても逃げただの何だと、ネットのレスバみたいな事になるに違いない。ならば三鶴城の挑発には正面から、堂々と受けてやる他はない。
「まぁ余裕だな」
俺は胸を張って言った。昔父親が言っていた、男は根拠がない時も胸を張るべきだと。まさしく今がその時だろう。
「‥‥あなた、言っていることがポロポロ変わるのね」
三鶴城は呆れた様な視線を浴びせてくる。
「ただ、軽いヒントがてらに聞かせてくれ。どうしたら陽キャラにふさわしいって、認めてくれるんだよ」
三鶴城は顎に手を当てて考えている。言い出したこいつも、こんな風に考える様ではとてもじゃないが難しいのでは? と俺は思った。
「そうね‥‥。確かにそこはあやふやなところね」
「だろ? そもそも陽キャラは自分の事を、陽キャラなんて定義してないんじゃないか?」
「‥‥どういうことかしら?」
こうしている間に夕日がどんどんと沈んでいく。車や人も増えて来たが、俺と三鶴城はここから一歩も動いていない。
「そもそも、陽キャラは自分が楽しければいいんだよ。クラスのカーストなんて何も考えてない。だってあいつらは、多分自分が一番だと思ってるからな」
三鶴城はふむ。と頷いた。しかし何か納得しない様で、組んでいる腕の指先をトントンとし始めた。
「でも私は自分が一番だと思っているけれど。それに、なら青春君は陽キャラでは無いと言うことになるわ」
三鶴城は一切の迷いを感じさせず胸を張った。おそらくこいつは本気でそう思っているに違いない。ここまで強メンタルなぼっちは初めて見た。
「お前は例外だよ‥‥。つーかお前はぼっちであって、陰キャラではないんじゃないか? 俺はほら、あれだ。なり立てだからな」
「私は自分の事を一度も陰キャラと言った覚えはないのだけれど。私はぼっちなのは認めるけど、陰キャラではないわ。それにぼっちなのも望んでいる事なのだし」
三鶴城にこの手の話はだめだった。こいつにすぐに熱が入るのなんて、目に見えていた事なのだ。今だって少しムキになってきている様に見える。
「‥‥話を戻すけど、どうしたら俺が陽キャラの仲間入りをしたと認めてくれるんだ」
「‥‥そうね。クラスに中心に立ってウェイウェイすれば良いんじゃないかしら?」
ーー俺はウェイウェイした自分を想像してみる。
黒須や池尾に、「なんか楽のやつ調子乗ってねぇ?」「俺も前から合わないなって思ってたんだ」なんて言われ、「あいつ高校デビューらしいぜ!」「まじかよ、キモっ!!」なんてクラスメイトにすら言われるのが想像できる。
‥‥やばい、目から水が出てきそうだ。
「それはちょっとハードルが俺には高そうなんですけど‥‥」
「何で涙目なのよ‥‥。それじゃあ、今月の終わりにある体育祭の実行委員になってみなさい。そこで見させてもらうわ、青春君が陽キャラとしてふさわしいのか」
話がどんどんとややこしい方向に向かっている気がするが、こう言われると拒否権はないだろう。
しかし、体育祭の実行委員といえば陽キャラ御用達の役目。つまり俺にはどんなものなのかも想像がつかない。
そもそも考えてみたら、体育祭自体しっかりと参加したことはない。目立たない種目に参加して、一日をやり過ごす。その為、結果など気にしたことすらないのだ。
「分かった、そこで証明してやるよ。俺の陽キャラとしての実力を」
こうして目的は定まった。実際こうして分かりやすいものに向かって行く方が、イメージも湧くというもんだ。
俺は体育祭に向けて、不安と期待が混じった何とも言えない気分のまま家路についたのであった。
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