穏やかな期間
そして迎えた今日の五時間目の時間。お昼ご飯の後で少し眠いが、この時間は体育祭の実行委員と、種目を決める大切な時間なのだ。三鶴城との約束通り俺は実行委員にならなければならない。
「じゃあ、最初に実行委員を決めるが誰かやりたい奴はいるか?」
先生の呼びかけに教室内が一瞬静まり返る。この雰囲気は本当にやってみたいやつがいたとしても、名乗り出るのが難しいやつだ。
俺は中学の頃は一切手を挙げずに、最後に余ったものをやっていた。当然面倒くさい委員になるが、穏便な学生生活と天秤にかけたらそれくらいのことは目を瞑っていた。
その教室内で俺は高らかに手を挙げた。勢いよく腕を伸ばしすぎたかもしれない‥‥。
「えぇ!? 楽、実行委員やんの!?」
黒須の驚きの声が聞こえてくる。俺だって三鶴城に言われなければ、こんなだるそうな事は絶対にやらない。
「じゃあ青春は決定だな。あとは女子だが‥‥」
先生はそう言って教室内を見回す。
そういえば女子もいるのか‥‥。体育祭という手前、変なやつが立候補する事はないとは思うが、出来るなら話しやすいヤツ希望。
「誰かいないのか? 誰もいないならくじ引きになるが」
女子達はみんな顔を逸らしている。これは俺とやるのが嫌だから‥‥とかじゃないですよね? みんな体育祭実行委員が面倒くさいんだよね‥‥?
「‥‥あ、あたしやります!」
「おぉ助かるぞ獅子堂。じゃあこれから種目を決めてもらうから、二人で進めてくれ」
そして俺と暗那は教団の上に上がる。朝の話もあってか、未だに教室内の好奇心の目が向けられている。
それもそうだろう、わざわざ俺が立候補した後に暗那がしたのだ。俺が第三者だったら興味ないフリをしつつ、内心では気になりまくるだろう。
早速、種目決めが始まったが意外とサクサクと進んでいく。俺は人前で話すのは大嫌いで、すぐ顔が赤くなる自信があったが、俺と暗那がやっているためか、黒須と李梨奈が要所を仕切ってくれていた。
このクラスにおいて、改めてこのメンバー達の権力の強さが証明されていた。
そうして今度は種目別に話し合いが始まる。みんなさっきまでは冷めた雰囲気だったが、こうして話し合いやらが始まると実感が湧くのか、今では盛り上がっている。
運動部である黒須と池尾が中心に男子達は集まっていた。女子は体育祭に関係があるのか分からないが、何人かで別れて楽しそうにくっちゃべっている。
「楽君、昨日一緒に帰ったせいで誤解されてごめんね」
「いやいや、むしろ俺の方こそだから!」
暗那は種目参加者の名前を用紙に書き写しながら、教卓の後ろで足をバタバタさせている。用紙に書かれた字は女の子だとすぐわかるくらいに、丸っこい字だった。
「実行委員もあたしが出て迷惑だったかな?」
「いや、それは正直助かった。知らない奴とだけは嫌だったからな」
「なら良かった。高校生活初めての体育祭だから、頑張ろうね」
暗那は用紙に記入が終わった様で、ペンを筆箱にしまっている。用紙に記入するのを暗那に任せてしまったが、俺が書くと読めない可能性がある。
中学の頃に担任の教師にミミズのビッグバンと、言われた時はかなりのショックだったのを覚えている。
俺は思った。もう既にこれが陽キャラっぽくない? つーか三鶴城別のクラスだから、俺の陽キャラっぷりなんて見れなくね?
仮に見せるチャンスがあるとすれば、それこそ体育祭本番の日しかない。あの日ならみんな校庭にいるし、他のクラスとも入り乱れるわけだ。俺のクラスでの存在感を三鶴城に見せてやることもできるということだろう。
こうして、とりあえずは実行委員になることには成功した。体育祭までは残り二週間ちょっとしかない。しかしあの頑固な三鶴城が簡単には認めないだろうと、俺は正直不安だった。
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