穏やかな期間3

 

 会議が終わるや三鶴城はさっさと居なくなってしまった。あのエリートぼっちは帰宅する姿も堂々としていた。威風堂々という言葉は三鶴城のために、存在しているのではないかと疑う様な後ろ姿だった。


「思ったより、早く終わったね!」


 暗那が伸びをしてリュックを抱えた。体がのけ反った瞬間の胸に目がいってしまうのは、男子高校生なら仕方のないことじゃないか。


 女子が屈んだ瞬間のワイシャツの中、階段で上を登っている時のスカートの中。夏場に暑くてスカートの中を仰いでる姿など、見てはいけないと理性ではわかっているのだが、本能なのかつい目がいってしまう。


 しかし、これらは見ている事がバレたら最悪なことになる。キモいだのと罵られ、女子達からは白い目で見られる。しかしそれは逆にバレなければ、いくら見ても構わないということなのだ。


 きっと俺を含めた世の男子高校生達は、このミッションを遂行することに魂を燃やしている筈だ。


「‥‥あぁ、そうだな」


 暗那の胸が大きいのは服の上からでも分かる。華奢な体なのに、胸の主張が激しい。


「‥‥どうかした?」


「い、いや俺も眠いなって」


 そう? と言わんばかりに暗那はニコリと笑った。二人で体育祭実行委員をやってから、暗那とは大分仲良くなった。あのクィーン李梨奈の友達とは思えないくらいに、控えめで優しい。中学の頃の俺だったら既に惚れている可能性すらある。


 今の俺はこうやって暗那や李梨奈と話したり、他の女子とも話したりしているせいか、多少の耐性はついた筈だ。


「陰キャラって、すぐ勘違いするんですよぉ。本当肩とか触られたり、朝とか放課後に挨拶するだけで勘違いするし、マジちょろい!」とインタビューで、バリくそ陽キャラの女子高校生が答えていたのを思い出す。


 うわぁ、女子って怖えぇ。って思った記憶があるが、それもきっと人によるのだろう。今目の前にいる女の子がそんな事を考えている様には到底見えない。 


「帰ろっか? 途中まで一緒で良い‥‥? また勘違いされちゃうかな?」


 確かに勘違いされるかもしれない。クラスの他の奴らはきっと未だに怪しんでいる。それはもしかしたら李梨奈や黒須達も疑っているかもしれない。


 そもそも付き合ったりしていない男女がこうして、一緒に帰る事はよくあることなのだろうか?  


 ギャルゲーでは良くあったが、きっとあれを参考にしていたら俺には彼女なんて絶対できない。


 結局よく分からないが、一緒に帰れるチャンスがあるのなら俺はそれを逃したくない。遅れた青春はここで取り戻すんだっ!!


「大丈夫だよ。噂なんて所詮は噂なんだから、気にすんな!」


「うん、そうだね。じゃあ行こっか!」


 暗那が歩き出した少し後を俺はついて行く。普通に歩いていても簡単に追いついてしまう。女子の歩幅が男子よりも小さいことを俺は今知った。考えてみるとそんな事は当然なのに、今まで考えたこともなかった。


 陽キャラになってから、初めて知ることばかりだ。勝手に世界に悲観して、視野を狭めて楽しもうとしなかった中学時代。その時の時間も無駄なんて思わないが、それでも人と関わる事は楽しいことだと俺は思った。


 


 ーーこうして残すは運命の体育祭だけとなった。ここで俺の全てが決まるのだろう。そう思いながら俺は残りの日数を過ごした。



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