カースト争い2


「‥‥ねぇ、青春って三鶴城さんのこと本当に好きなの?」


「‥‥俺が一度でも三鶴城が好きだとお前に言ったか?」


 大泉は確かに。と言った表情で両手を叩いた。


「でもみんな言ってるよ。青春は三鶴城さんと付き合ってるって」


 もはや付き合っている事になっているとは驚いた。噂が膨張するとこんな事になるのか‥‥。


「付き合ってないし、そういう関係でもないよ」


「ふーん。そうなんだ」


 本当に信じているのだろうか。一体俺はこの噂をあと何度否定すればいいのだろうか‥‥。


「じゃあ好きな人はいるの?」


「誰が? 俺?」


 大泉は俺の右肩に体をコツンと当ててくる。


「今の流れで他に誰がいるのよ」


 何この子‥‥。ボディープレスは男子が勘違いしちゃうって教わらなかったの!? 特に女子に慣れてない俺にはそれはダメだから!


「‥‥うーんどうだろうな」


 頭の中には何人か顔が浮かんだが、これが好きかどうかと聞かれると俺には分からない。


「北澤と茂木はどうなの? 二人とも彼女とかいないよね?」


 一瞬誰だか分からなかったが、黒須と池尾のことか‥‥。普段ずっと名前で呼んでるから分からなくなったぜ‥‥。


「さぁ。あんまりそういう話しないし」


「えーっ、つまんない。女子は誰が好きとかよく話すよ?」


「じゃあひとつ聞いていいか?」


「何?」


 こんな事を女子に聞くのは躊躇われるが、気になってしまう。李梨奈や暗那には聞けないが、こいつなら口軽そうだしいいかも知れない。


「‥‥俺の事好きなやついる?」


 大泉はポカーンと口を開けて、俺を見ながら足を止めた。呆気にとられるとはこれの事を言うんだと、俺に教えようとしているのかも知れない。


「それ、普通は聞かないよね?」


「俺が普通だと思ったら大間違いだぞ」


 俺は元陰キャラだからな。ちょっと普通とか分かりません。


「青春って意外と変なやつなんだね。茂木と北澤といるから、そう言う感じなのかと思ってたけど」


「なんだよそう言う感じって‥‥」


「えーとね。ゴリゴリのスポーツマン的な感じ」


 確かにあの二人はスポーツマンだな‥‥。ただ、ゴリゴリって何? マッチョ的なあれだろうか?



 

 そうしてくだらない話をしていると、教室に着いた。中に入ると赤羽が大きな声を出した。


「何何!? 青春と沙奈の二人って仲良かったの!?」


 その声に教室にいたみんながこちらを見る。なんかこれデジャブなんですが‥‥。


「うんっ。仲良くなったの!!」


 そう言いながら大泉は俺の腕を掴んで、自分の腕を回してきた。


「えっ、何?」


「えーっ、いいないいな。うちとも仲良くなって? ね?」


 赤羽はいつもよりも甘えた声を出しながら、俺の手を掴んだ。その距離はとても近い。


「えーと、いいけど‥‥」


 何が何だか分からず、俺は頷くしかなかった。


「じゃあ遊びにいこっ! ね?」


「何何? 遊びの約束してんの楽?」


 俺と赤羽のところに黒須がやってきた。その手には、食べ掛けのお弁当を持っている。


「そうだぁ! どーせならぁ、北澤も一緒に行こうよぉ!」


 赤羽は今度は黒須の方へと体の向きを変える。まるで嵐の様なやつだ。しかし、こう誘われて黒須が断るはずがない。なぜならあいつは女子が好きだからだ。


「いいぜ! どこ行くよ!」


 ‥‥思いっきり予想通りで、我ながら笑いそうになる。黒須は去るもの追わず、来るものはウェルカムを心情としていると、アホそうな事を言っていた。


 その時、教室の端の席にいる李梨奈の視線が目に入った。頬杖をつきながらこちらを見ている。


 その恐ろしい視線は思わず鳥肌が立つほどだった。李梨奈が黒須のことが好きなのは見ていれば分かる。しかし黒須はアホだからそれに全く気づいていない。横にいる暗那も不機嫌そうに俯いていた。


 ーーその二人の方を見て、赤羽が微笑んでいたのに俺は気づいてしまった。



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