カースト争い
体育祭の熱もすかり冷め、新一年生も高校生活にすっかりと馴染み始めた六月下旬。
この時期になってくると、段々と決まったグループでいることが増え始める。俺は相変わらずいつもの五人でいることが多いが、同じ教室内でも日々人間関係が変わって行く様に見える。
人の噂も七十五日と言ったが、最近は三鶴城とも話す機会も減り段々と変な目で見られることも減った。
それでもそれは教室内での話で、三鶴城のクラスのあたりまで行くと、何故か勝手に俺を見たあとに三鶴城を見る生徒も多い。俺は体育祭でのことがここまで尾を引くとはまさか思わなかった。
相変わらず俺から見てもクラスの女王である李梨奈は健在だが、その他にもクラス内で力を持った女子の集団が台頭してきている。
李梨奈はあまり人と群れることをよしとしないせいか、暗那以外と一緒にいるのをあまり見ない。
そうしたことから、自然とクラス内では第二の女王が出来上がるわけだ。つまり李梨奈は力を持つが、人に関与しない。第二の女王がクラス内での実権を握っていると言っても過言ではなかった。
別に騒いでいる分には全く問題はない。授業中も彼女達は席が近く、大声で話したりして先生によく注意されている。それももう見慣れたせいか、どの生徒もいつものことだという認識程度にしか思っていない。
李梨奈も自分に危害が及ぶ事は嫌がるだろうが、勝手に騒いでる分には興味がないと言っていた。
ーーそうしてなんとなく平和な日々は過ぎていたのだが、事件はある日起きた。
女子達の間で黒須はとても人気で、それはクラス内でも止まらず他のクラスの女子すらも、黒須の所まで来るのを見ることが増えた。
「俺超人気ものじゃん!」
なんて黒須は言っていた。この辺は非常に黒須らしいなと俺は思っていた。
ただその人気は広まって行く。人は人よりも常に優位に立っていたいと考える人が多い。
高校生活なんてそれの最たるものなのだ。常にステータスを考え、人よりも優れていることをアピールする。つまり人から一目置かれることに全力になるのだ。
そうなると当然黒須の存在はとても重要なポジジョンを担う。女子達からしたら黒須と仲が良ければ自慢になるのだ。黒須自身、女子と話すのは楽しいことだろう。勿論俺だって女子と話すことは楽しい。普通の男子生徒はみんなそうだ。
ただ女子は楽しいのその先を見ているのだ。勿論、好きな人と話すならそれは健全なことだろう。
しかし、黒須と仲がいい私を見て? と言った意味合いが女子達には含まれている。
赤羽一香も当然その中の一人。最近は暇さえあれば黒須や池尾。そして俺にまで話しかけてくる。
話してみた感じ悪い子ではない。むしろ良い子で話していてとても楽しいと俺は思う。ただ口には出さないが赤羽一香にしろ練馬新奈にしろ、俺は三鶴城のことが好きだと思っているらしい。この認識はきっと覆らないかも知れないと思っている。
池尾と黒須には付き合っている相手はいない。そうなると女子達が彼らを狙うのも必然と化してくるのだ。
時間は昼休み、いつも五人で教室で食べているが、俺は今日はお弁当を持ってきていない。そうなると購買でパンを買うか、食堂に行くかの二択になる。食堂は先輩達の巣窟と聞いたことがある為、とてもではないが行くきにはならない。
そうなると選択肢は自然と購買に絞られる。という訳で俺は一人で購買に来ていた。
購買で購入するのは初めてではないが、相変わらず人で溢れている。まるで満員電車の様だ。
人気のパンを目的に生徒達が鬼の形相で集っている。その中に一人、後ろの方でオロオロとしている女子生徒が目に入った。
「‥‥何してるんだ?」
その姿は赤羽一香の取り巻きの一人の大泉沙奈だった。彼女は挨拶程度の会話くらいしか俺はしたことはない。それ以外の印象といえば赤羽一香の取り巻きくらいの印象だ。しかし、かと言ってもクラスメイトである事には変わりない。
「青春か、ビックリさせないでよね!」
普通に正面から話しかけたのにビックリされるとは、俺は一体なんなのだろうか‥‥。
「購買、普段はこないのか?」
「初めてよ。こんなに人がいるのね購買って‥‥」
考えてみれば俺も初めて足を運んだ時は面食らったものだ。人も多いがパンを奪い合う姿が獣の様に見えるからな。
「一人なのか?」
「見ればわかるでしょ!」
ただの取り巻きくらいに思っていたのに、気の強そうなやつだ。気が強そうなのに購買程度でビビっているのは不思議だが。
「赤羽と練馬とくれば良かったじゃねぇか」
「二人は教室に居るわよ。購買になんか一緒に来ないし」
そういうものだろうか? 取り巻きだから常に一緒にいるものだと、俺は勝手に思っていた。
「俺よく来るし慣れてるから、パン買うの手伝ってやろうか?」
「‥‥何? なんか企んでるの?」
なんかこの子、俺にあたり強くない!? 人が親切心から声をかけてやったっていうのに‥‥。
「企んでねぇよ! 困ってると思ったから助けてやろうとしただけだよ」
「ふーん。三鶴城さんに見られたら大丈夫なの?」
「‥‥何で三鶴城の名前が出てくるんだよ」
「逆になんで出てこないと思ったのよ」
こいつは‥‥本当に強気な女だな。黒須と話している時はもっと高い変えを出してるくせに。
「まぁいいや。困ってないんなら俺は教室に帰るわ」
きっとこれはお節介というやつだったのだろう。こんな事なら話しかけなけなければ良かったまである。
「待ちなさいよ! ‥‥一緒にいてくれるならついてきて」
大泉は俺のワイシャツの裾を掴み、俯きながら言った。一体どっちだというのだろうか‥‥。
「いいけど‥‥」
俺は大泉がパンを買い終わるまで隣にいてやった。大泉も食べたいパンが買えた様で満足している様に見える。
「じゃあ、俺教室に帰るから」
「いや、私も教室に帰るんだけど」
俺は大抵の女子と話す時は未だに大体緊張している。しかしこの大泉には全くそれがない。それはおそらく大泉も俺の事をそう思っていないからだろう。
仕方ないので大泉と一緒に教室に戻る。大泉は不機嫌そうな顔をしながらも、俺の隣をしっかりと歩いている。
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