陽キャラと陰キャラ2
帰り道、今日は昔から待ち望んだギャルゲーの発売日。帰り道に買うのをどれだけ楽しみにしていた事か。
現実では恋をしたことがない分、ゲームの中では様々な女の子達と付き合っている。もうこれは恋愛マスターと言っても過言ではないだろう。
ギャルゲーは絶対にハーレムな状態になるから、それがたまらない。その中でのお気に入りの子を見つけ、徐々に好感度を上げていく時の楽しさたるや言葉では表現できないものがある。最近では死滅しつつあるが、黒髪のツンデレキャラ。これは未だに破壊力が抜群だと我ながら思う。
暴力系ヒロインも最近では受けが悪いが、それでも俺の中ではまだまだ全然あり。
たまに見せるデレの部分だけでごはん三杯はいけるかもしれん。
本屋を見つけ俺は中に入る。
ーー問題はここからだ。ギャルゲーなんて買っている所をクラスのやつに見られるわけにはいかない。もし見られたら、「うわっ、きもっ」とか真顔で言われる可能性が高い。そうして女子ネットワークで明日には学年中に広まるだろう。
俺はそれを想像するとお腹の下の辺りがゾッとする。単純にネットで予約すれば安全だが、それでは意味がないのだ。自分の足で買う。これこそがいいのだ。帰り道に楽しみにしながら、コンビニでお菓子でも買って帰る。この楽しみに勝るものはない。
ーー間違いない。今夜は寝不足決定だろう。
とりあえず俺は新作ゲームの欄をチェックする。よし、ちゃんとまだ残っている。
あとは迅速にレジへ持って行きお会計を済ませ、お店を出る前にカバンへとしまう。俺は売り場で何度もシミュレーションを行う。
いける自信しかない。このミッション‥‥もらった。
ーーその時、お店の入り口からクラスの女子が入ってくるのが見えてきた。俺は手に持っていたゲームソフトを売り場へと戻し、店の奥へ退避をする。
‥‥危なかった。そもそもゲーム売り場にいる所を見られるのも、何故か恥ずかしいのは何故だろうか。その点、今いる小説の売り場は安全でしかない。
どうにかクラスの女子達とエンカウントしないように、棚を上手く使い立ち回る。
間違いなく気づかれていない。この辺の技術は中学の時に得たものだ。存在感を消すと言う、ぼっちにほぼ必須と言ってもいいスキルだ。
このスキルは間違いなくぼっちの八割が会得している。 ※俺調べ
無論それは俺自身も多用させて貰っている。最近でこそ使う事は昔よりは少なくなったが、それでも長年のスキルは錆びる事はないらしい。
無事に彼女達がお店を後にするのを見送る。普通の生徒達は今は部活をしている筈だが、彼女達は自分と同じで帰宅部なのだろう。
思わぬ邪魔が入ったが、これで舞台は整った。
ゲームソフトをレジへと持っていく。他に誰も並んでいないタイミングを見計らったため、周りには誰もいない。
ーーこの勝負もらった。
「こちらのソフトですね。少々お待ちください」
店員さんがそう言ってソフトを探している。
新作なんだから目の前に置いてあるんだよ!! そっちじゃないからぁ!! とは言えず、俺は店員さんの動向を焦りながら見守る。早くしないと誰かレジに来ちゃうからぁ!!
ーーその時、危惧していた通り後ろに誰かが並んだ気配を感じた。どうか老人であれと祈りながら振り向く。しかしそこにいたのはうちの高校の生徒だった。しかも、さっき職員室で会った女子生徒だった。
「お時間お掛けして申し訳ありません。こちらのソフトでお間違いないですか?」
店員はソフトをオレに見えるように差し出す。これはまずい、この角度は後ろから見える可能性がある。
俺は間違いないです。と頷き、ゆっくりと背後を振り向く。すると女子生徒はスマホを眺めていたので、ホッと肩を撫で下ろす。
お会計を済ませ、そそくさと俺はレジを後にする。どうやらあの女子生徒には気づかれていないらしい。
危なかった。‥‥もし気づかれていたら高校デビューが脅かされていたかもしれん。とっとと帰ってゲームに勤しむとしよう。
「ねぇ」
背後から聞こえた声に振り向くと、さっきの女子生徒が立っていた。その手には会計を済ませた袋をぶら下げている。
「‥‥なんだよ?」
「さっき職員室で会った人でしょ? 何を買ったのかしら?」
女子生徒は腕を組みながら、顔を傾けている。一体何故こんなことを聞いてくるのだろうか。
「‥‥そうだけど。何を買ったかなんて関係ないだろ」
「あなた友達たくさんいるわよね。あのウェイウェイ系の」
ウェイウェイ系って‥‥。周りから見たらやはりそう見えているのか。これが陽キャラか、中々に悪くはない。
「まぁな。それがなんか関係あるのか?」
「最近のウェイウェイ系は、そんなゲームが流行っているのかと疑問に思っただけ」
女子生徒はニヤリと笑った。眼鏡の奥のその瞳は静かに笑っていた。
こうなっては俺の脳内ではお祭り騒ぎである。
もしかして見られていたのか? それでこうして面白がって近づいてきたのか‥‥?
戸惑う俺をよそに女子生徒はスマホを触り始める。一体何事かと見守っていると、俺のほうに画面を向けた。
「制服彼女の杞憂。って面白いの?」
スマホには店員が俺にソフトを見せている瞬間の写真が写されていた。そこにはしっかりとソフトの名前と、パッケージが見える。
これはまずい‥‥。こいつはなんだ、一体何が目的だと言うのだ。並んでる時、スマホを触っていたのは写真を撮っていたのかよ‥‥。
「‥‥何が目的なんだよ」
髪の毛を右耳の後ろに掛けながら、女子生徒は瞬きをした。その姿はとても綺麗で可憐だった。
「目的なんてないわ。ただ、最近はこういうゲームが流行っているのかと疑問に思っただけ」
‥‥本当だろうか。完全に何かを企んでいるような、嫌な笑みを浮かべて見えるように見えるのは俺だけだろうか。悪い顔と言うのはまさしくこう言う顔を言うのではないだろうか。
「その写真を消してくれ。盗撮だろ」
とにかく写真さえなければどうにかなる。盗撮と言われれば、きっと消してくれるに違いない。
「消して欲しいって事はやましい事なのねこれは。まぁそうよね、イケイケな青春君がギャルゲーなんてやってるって知ったらみんなどうなるのかしらね」
女子生徒は頬の横にスマホを当て、挑発的な笑みで口角をあげた。こいつは今完全に俺のことを脅している。
「俺の名前、知ってたのか?」
「えぇ、よーく知ってるわ。なんか気に食わない集団だと思ってたのよ」
考えて見たら俺は中学の時、陽キャラ達が嫌いだった。そうなるとこうやって嫌われるのは当然なのだ。
陽キャラとは、目立つ分ヘイトを買う事は必然だったのだ。
「そ、そんなことしてお前に何の得があるんだよ」
「得? そうね、私はあなた達みたいなうるさい人種が大っ嫌いなのよ。教室では動物園みたいに騒ぐだけのアホ丸出し。そんな青春君が堕ちていく姿を見れるのは、とても楽しいことだと思わない?」
大人しそうなやつだと思ったが、こいつはとんでもないやつだ。学校での姿は完全にネコを被っていたんだ。本当のこいつはきっと目の前の姿だろう。
とんでもないやつに見られてしまった。俺の高校生活はこうも早く終わってしまうのか‥‥?
いや、だめだ。ここまできて今更中学のようには戻りたくない。絶対に陰キャラの仲間にはもうなりたくないんだ!
「‥‥頼む、誰にも言わないでくれ」
いくらこの女子生徒が陽キャラが嫌いだと言っても、こうやって頼めば流石に申し訳ないと思う筈だ。
「いやよ」
しかし、答えは即答。一切考えることもなく目の前の女子生徒はそう言い放った。そして俺に背を向け言った。
「明日からの高校生活のことでも考えておきなさい。ねぇウェイウェイ系のギャルゲーマーの青春君?」
少しづつ女子生徒は遠ざかっていく。しかし止めるなら今どうにかするしかない。今までの苦労を、あんな恐ろしい女に壊されてたまるのものか。
「ま、待てよ! 落ち着いて話をしよう。頼む!」
俺は女子生徒の手首を掴み、足を止める。こんな姿を誰かに見られていたら、完全に俺が言い寄っているようにしか見えないだろう。
「惨めね。集団だと粋がってるのに、陽キャラって一人になると途端に何もできないのよね」
俺はブルッと身体が震えた。恐ろしく真顔で、氷のように冷たい瞳をしていた。
「まぁいいわ。話くらいなら聞いてあげるわよ? ねぇ、ギャルゲーマーさん」
屈辱を感じたが、今は従わざるを得ない。隙を見てあの画像さえ消してしまえば、こっちのものだ。俺の陽キャラ生活をこんな奴につぶさせる訳にはいかない。
ーーこうして、俺の陽キャラ始まって以来の一大ミッションが幕を開けたのであった。
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