体育祭後半!!
スウェーデンリレーの結果は二位。黒須も池尾も暗那もよく頑張っていた。それこそびっくりするくらいの速さだったが、序盤の遅れを取り戻す事ができずに、二位でフィニッシュとなった。
「三人ともお疲れさま」
俺と李梨奈はゴール地点の三人のところへとすぐに向かった。
「お疲れ! 三人とも超かっこよかったし!」
三人はそれでも結果に不満があるのか、満足といった表情では無かった。
「くっそー! もう少しだったのに!」
「仕方ないよ黒須。序盤に離されすぎたね」
池尾は相変わらず涼しい顔をしている。もはや汗をかくことがあるのかと、不思議にすら思う。
「暗那もお疲れさま。足速かったんだな! カッコ良かったよ」
俺は李梨奈に言われたことを思い出す。具体的にはよく分からないが、とりあえずは今まで通りにすることにした。
「ありがと。でも、ちょっと悔しいな」
俺からしたら二位なんて凄いことだと思う。それでも満足しないと言うことは、一位を本気で狙っていたと言う事。
しかしこのリレーを見て気づいたことがある。人は何かに真剣になっている時の姿はとてもカッコいい。適当に済まし、格好をつけているやつを何人も見てきたが、そう言う奴らはきっと怖いのだろう。自分のカッコ悪い姿を受け入れるのが怖いのだろうと思う。
つまり負けるのが怖いのだ。だから手を抜き、そもそも戦いのテーブルにすら立たない。そんな奴らに比べたら負けたとしても、それで悔しがれるなんて眩しいことだと思う。
なんとなくこれは青春なんじゃないかと俺は思った。
「次でラストか。優勝したいなマジでー!!」
黒須はそう言って得点板を見に行った。
最後の競技はクラス対抗の大縄跳び。この競技はスウェーデンリレーの次に配点が高い。
さっき俺は得点を確認したが、おそらくは今は二位につけているだろう。この大縄跳びの結果次第で、まだ十分に挽回の可能性は残されている。
上級生のスウェーデンリレーが終わり、遂にこの体育祭を締めくくる最後の競技となる、大縄跳びが幕を開けようとしていた。
「お前ら、絶対勝つぞーー!!」
「「おぉーー!!!」」
黒須の掛け声にみんなが応える。何かクラスが一つになっている様な気がした。
でもこの中には中学の頃の俺の様な生徒は、少なからず存在しているだろう。それでもこうして一丸となって、一つのものに向かっていくことは楽しかった。
ーーそして大縄跳びが始まった。
この競技は制限時間内で、どれだけ飛び続けられるかを競っていく。俺のクラスは練習の時は、思う様な結果を出すことが出来ていなかった。
みんなの声とともにカウントを重ねていく。失敗しても、「もう一回!」と飛び続ける。何度も、何度も飛び続けた。
ーーこうして終了の合図が鳴り響いた。
カウント係の実行員が数の集計をとっている。この瞬間のドキドキを俺はきっと一生忘れることはないだろう。
初めて体育祭を本気で頑張った。色々あったが楽しかった。結果がいいことに越したことはないだろう。
でも、それでもこうしてみんなで頑張ったと言うことだけで良かった。とにかく楽しかった。
結果は二位。その瞬間俺たちのクラスは学年の二位と言うことが決まった。
閉会式と共に表彰式が始まった。二位と言うことで俺は、壇上で校長先生から賞状を受け取る。
俺のこの人生において壇上に上がったのは初めてだろう。そんなに高いわけではないのに、ここでは全校生徒の顔を見渡すことができた。
「あぁー! 惜しかったなぁーー!! 悔しいなぁーー!!」
閉会式が終わっても黒須は未だ不満なのか、大声で駄々をこねていた。それを李梨奈と池尾がなだめている。その光景は子供をあやしている様に見える。
「お疲れさん」
俺は端で座っている暗那に声を掛ける。疲れているのかだらんと脱力している様に見える。
「うん、楽君もお疲れさま! あたし久しぶりにこんな運動したよ」
「俺もこんな風に体育祭がんばったの初めてかも知んない。結構楽しいんだな」
周りの生徒達が順に教室に引き上げていっている。その光景がなんだか体育祭は終わったのだと改めて思わせる。
「あたしも初めてかも。‥‥一緒だね」
「そうだな。一緒かもな」
遠くの方で実行委員達がテントや、小道具の片付けをしているのを見て思い出した。俺と暗那も実行委員と言うことを。
「‥‥俺たち片付け忘れてるよな」
「‥‥あたしも同じこと思った」
すぐに後片付けに加わる。そこには三鶴城の姿もあった。俺は三鶴城の所に向かう。
「‥‥お疲れ」
三鶴城は俺の顔を見て無愛想に手を止めた。
「お疲れさま。私とした約束は覚えているのかしら?」
今言われて俺は思い出した。今三鶴城の所に来たのは、お弁当のお礼を改めて言おうとしていたのだ。そう言えばこの体育祭は俺が陽キャラにふさわしいのかを見るものだった。実行委員になったのもそのためだったのだ。
三鶴城は俺の表情を見て呆れた様にため息をついた。
「忘れてたのね。まぁ、あなたらしいわ」
俺らしいとはなんだろうか。約束を忘れるのが俺らしいのだろうか‥‥。
「‥‥いや、まぁ‥‥忘れてたわすまん」
しかしこの約束は三鶴城が覚えていればいいものだろう。判定するのは三鶴城なのだから。
「青春君と三鶴城さん。このゴミを捨ててきてもらえるかな?」
俺と三鶴城の元に、体育祭実行委員長がゴミを袋を持ってやってきた。その顔はニコリとしている。何やら俺には嫌な予感がした。
「‥‥どうして俺たちが?」
「いいから頼めるかな? 頼むよ」
そう言って委員長はそれ以上の有無をいわせずに去っていった。しかも、去り際に分かりやすく俺にウィンクをしていた。
「‥‥良かったわね。盛大に勘違いされてるわよきっと」
「これはあとどれくらい続くんだろうか‥‥」
「人の噂も七十五日と言うわよ」
「いや、すげぇ長くね?」
七十五日って二ヶ月ちょっとだよね‥‥? とても長いよ人の噂‥‥。
俺は観念してゴミを焼却炉に運ぶ。校庭からは少し離れていて、ゴミも重いせいか凄い疲れる‥‥。
しかし驚いたのは三鶴城も大変だったのか、ゴミを床に置いて途中に休んでいたことだ。その結果俺が全てのゴミを抱えることとなった。
三鶴城も普通の女の子同様、重いものは厳しいらしい。これはおそらくは欠点とは言わないだろうが‥‥。
「男のくせに情けないわね。全く」
「いや、お前の分も持ってんだぞ!? つか、俺が元々非力な陰キャラだと言うことを忘れるなよ」
高校デビューをするにあたって筋トレはしたが、体つきが良くなった程度のことだろう。素人が少し筋トレをした程度でそう簡単には変わるまい。
「‥‥そうだったわね。忘れていたわ」
そう言いながら俺が地面においたゴミを、三鶴城が焼却炉に押し込んでいく。俺もその隣でゴミを手渡していく。
「‥‥青春君、あなた今日一日とても楽しそうだったわ」
「まぁ、楽しかったからな。‥‥三鶴城は楽しく無かったのか?」
三鶴城は今日も相変わらず一人でいた。競技をしていない時も一人で見ていた。いつもはみんな気にしていないのかも知れないが、今日は俺のせいで居心地の悪い思いをさせてしまったんだよな。悪いことをしたと思う。
人から浴びせられる好奇心の視線程、気持ち悪いものはない。俺も暗那と噂された時の教室内の視線でも嫌だった。
今日だって良いものでは無かった。三鶴城だって平気と言っていたが、内心は心地が悪かったに違いない。
「そうね。悪くは無かったわ」
「うん。お前らしいなその答え」
三鶴城は髪の毛を耳に掛け、顔を傾けた。
「あら? 青春君は私の事をそんなにも知っているのかしら?」
「うーん。たまに見せる笑顔が可愛いのと、メガネが無いといつもより更に、可愛い事しか知らないな」
三鶴城は驚いた様な表情を見せた後、俺に背を向け俯いた。
「‥‥あなた、それわざとでしょう」
「‥‥バレたか」
たまには三鶴城に反撃をしてやろうと思って言ったのだが、意外と効果はあったのかも知れない。
「元陰キャラが言う様になったわね」
振り向いた時、三鶴城はいつも通りの表情をしていた。しかしいつもよりは少しだけ、柔らかい様な気がしたのは俺の勘違いだろうか。
「元陰キャラ舐めんなよ?」
三鶴城は小さく笑った。あまり笑わない三鶴城が笑うと何故だか俺も嬉しくなってくる。
「約束。保留にしといてあげるわ。画像は消してあげないけどね」
「おっ!! まじか!! って消してくれねーのかよ!」
「まだあなたが陽キャラにふさわしいのか分からないじゃない。そのために画像は持っておくわ」
消してはくれないが、これは一応今日は認めてくれたと言う事で良いのだろうか?
とにかくこれで良かった。世間は本当に高校デビューに風当たりが強いからな。高校デビューは陰キャラ達からしても、妬みの対象になる訳だし。
「それで良いよ。とにかくサンキューな」
「お礼を言われると調子が狂うのだけど‥‥」
三鶴城は全てのゴミを捨て終わり、校庭へと引き返していく。俺もその後をついていく。
校庭の方も片付けが終わった様で、体育祭実行委員達が集まっている。そこの集団に俺たちは合流する。
「楽君、どこに行ってたの?」
「ゴミ捨ててきたんだ。これは何してるんだ?」
「一応、実行委員の仕事は終わりだから解散式だって」
‥‥なるほど。そんなものがあったとは知らなかったな。
「みんなお疲れさま。みんなのおかげで今年の体育祭も無事に終えることが出来たよ」
一番前では実行委員長がマイクを持ち立っている。こうしてみるとよく何もなく無事に終わったと思う。
「じゃあ飲み物持っていってくれ」
大きなクーラーボックスの中に入った缶ジュースが配られる。これはなんだろうか? お疲れさまでした的なあれだろうか?
「みんなに行き渡ったかな?」
委員長は生徒達を見回す。この人は人前で話すことに本当に慣れている。顔色一つ変えずにいるその姿は、素直に感服せざるを得ない。
「じゃあ、本当にお疲れさまでした!」
委員長の声と共に歓声が上がる。こういうのはとても良い。きっとこの中の人たちは、こんなことは初めてではないだろう。
しかし初めての俺にとっては全てが新鮮で、新しいことだ。実行委員はめんどくさいことばかりで、普段だったら絶対に入ることはなかっただろう。でも今はハッキリと言える。
ーー入って良かったと。
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