2-9

 それが、キバのラセックス国王との交渉の全てだった。

 ほぼ全ては、キバの思惑通りに運び、ラセックス軍の力を借りることが決まったのだ。


 だが、一つだけ予想外のことがあった。

 ノースアングルとの戦いを終えたラセックス三万の軍の帰国が、予定より遅れたのだ。


 全速力でアルザスまで駆けつけても、ドラゴニアの兵が塩湖を奪う頃に到着するかは不明だった。

 それゆえ、ラセックス軍到着までは、キバたちは塩湖を死守する必要があった。


 それが一時間になるか、1日になるか、あるいは三日になるか。

 わからなかったのだ。

 もし一日以上となれば、アルザス軍はドラゴニアの兵を前に敗走するしかなかった。


 だが、なんとかギリギリ間に合った。


「ドラゴニアの兵よ! 見ての通り、ラセックスの兵は、総勢三万! 貴様らの三倍だ!」


 ルイーズがドラゴニアの兵士たちに、事実を突きつける。


 平原での戦い。兵力の差はそのまま勝敗に直結する。


 ドラゴニアが最強の国家であっても、兵士が三倍の力を発揮できるわけがない。

 ドラゴニアの強さは、兵士の多さに担保されているだけで、局地的に兵力が足りないのであればどうしようもないのだ。


「我々も無益な殺しは好まない。このまま引き返すのであれば、我々は攻撃しない。だが、戦うというのであれば――一人残らず、この平原に首を晒すことになるぞ!」


 その言葉を聞いて、クルードは歯ぎしりをしながら、ルイーズを睨みつけた。

 だがどれだけ威勢良く振る舞ったところで、状況は変わらない。


 一万の兵士で三万の兵士を倒すことはできない。

 

「く、ひきあげるぞ!」


 クルードは、部下たちにそう命令した。

 そして振り返りざまにキバを睨みつけて捨て台詞を残す。


「無能軍師め、覚えてろよ!」


 ドラゴニアの将軍の遠吠えは、虚しく平原に拡散した。


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