7-1 ドラゴニアの逆襲


 ジュートから獲得したグレイ荒野では、急ピッチで街の建造が進んでいた。

 最低限の施設ができたので、すでに商人も誘致している。


 ロイド男爵の提案通り、無税地域として各国の商人に宣伝したところ、既に多くの人と物が集まっていた。


「すごい勢いで商人が集まっています。さすがはロイド男爵ですね」


 キバが言うと、男爵は「これくらい大したことではないです」と首を振った。


 しかしキバはこの成果が、ロイド男爵のおかげであると確信していた。


「制度を考えたのも、商人を集めたのもあなたですから。もちろん税収入はありませんが、商人相手に生活品が売れますし、アルザス側でも色々なものの調達が安く済むようになりました」


 これまで、アルザスにわざわざ足を運ぶ商人が皆無だったので、何かを仕入れようと思ったら自分たちで他国の市場に行くか、高い輸送量を払うしかなかった。しかしグレイ荒野が市場化したので、これまでより安い価格で商品を調達できるのである。


 不毛のグレイ荒野が、アルザスの新しい中心地となりつつあるのだ。

 これも全て、ロイド男爵なしには不可能だった。


 キバでさえ、最初はロイド男爵のことをただの無能軍人だと思っていたが、今や彼は国になくてはならぬ存在だと認識していた。


「ところで男爵。例のものは買えそうですか」


 キバが尋ねる。


「ええ、抜かりなく」


 男爵が頷くと、キバは安堵した。


 キバは次なる戦いが迫っていることを予想していた。

 それに備える必要があったのだ。


「“ソレ”がアルザスのの命運を分けるかもしれませんからね」


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